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ドラッカーの「5つの質問」で考える、サステナビリティ経営におけるステークホルダー・エンゲージメントのあり方

ドラッカーが開発した組織の自己評価ツールとして「5つの質問」がある。社会が組織で構成され、人々が必要とするもののほとんどが組織により提供される組織社会において、組織が正しい成果を上げるための思考を促す、シンプルですが非常に有効なツールだ。 ドラッカー曰く、「組織はすべて、人と社会をより良いものにするために存在する。すなわちミッションがある。目的があり、存在理由がある。」 正にそのとおりだ。組織と社会は共存関係にあり、組織は社会をより良いものにするために価値を提供しているからこそ存在が許され、企業であれば売上や利益というリターンを得ることができる。 以下が「5つの質問」だが、これらを問うことにより、企業その他の組織が社会の中で自らのなすべきことが明らかとなり、正しい行動を取ることができる。 1. われわれのミッションは何か? 2. われわれの顧客は誰か? 3. 顧客にとっての価値は何か? 4. われわれにとっての成果は何か? 5. われわれの計画は何か? この「5つの質問」は本当に良く出来ていて、企業が自社のミッション/パーパスや活動が時代にマッチ

サステナビリティに関してもはや成り立たない5つの前提:グローバル目標や合意、ESG情報開示、ステークホルダー資本主義などはサステナビリティに向けた変革につながらない。

主なポイント: 多くの企業が依存してきたサステナビリティの前提条件は、気候変動対策を前進させるどころか、むしろ阻害している可能性がある。 それは、グローバル目標への依存や、市民がサステナビリティについて共通認識を持っているという前提が成り立たないからだ。 代わりに、サステナビリティの専門家は新たなアプローチに注力する必要がある。例えば、自らがコントロールできる領域に注力し、影響力を行使できない領域では野心を抑えるといった手法で、成果を上げるべきである。 サステナビリティが2018年から2021年にかけての行き過ぎたイデオロギー主導から「健全な調整」の真っ只中にあるという主張が良く聞かれる。これに対する主流の見解は、政治的反発を避けつつ、ビジネスケースへの注力を倍増させるべきだというものだ。 これは便利な説明ではあるが、あまり説得力のあるものではない。サステナビリティが盛り上がっていたピーク時には、サステナビリティが儲かるといったビジネスケースの説明が良く聞かれた。これは誰もが恩恵を受けるWin-Winのストーリーとして語られたが、実際は非現実的な

「サステナビリティを適切に実践することで、収益性が21%向上する。」サステナビリティのビジネスケースに関する最新のレポート

サステナビリティのビジネスケースに関する議論は終わった。過去10年間の研究は、サステナビリティが優れた財務パフォーマンスにつながることを示している。 主なポイント: ・新たなデータによると、サステナビリティを適切に実践することで、収益性を21%向上させるなど、優れた財務実績につながることが示されている。 ・企業は顧客向けに価値提案を定義することが多いが、取締役会、経営幹部、事業部門リーダー向けには価値提案を行っていない。 ・サステナビリティを「特徴」として、コスト削減の「推進要因」として、成長の「手段」として位置付ける価値提案を活用することで、企業は収益と価値創造を向上させることができる。 サステナビリティ分野においてビジネスケースを構築し提示する必要性は、一時的な後退はあったとしても、さらに高まっている。政治的反発に加え、ESGファンドのパフォーマンスに対する懐疑論や不安定な経済情勢が相まって、サステナビリティ部門は環境・社会イニシアチブが財務パフォーマンスにつながる論拠を示すよう、ますます強く迫られている。     最近IMPACT...

「気温よりも人間の福祉へのインパクトを成功の指標とすべき。健康、農業などの適応戦略を重視すべき」気候変動に対するビル・ゲイツ氏の主張は現実を見据えている

ビル・ゲイツ氏がブログ「Gates Notes」で10月29日に公開したエッセイ「気候に関する3つの厳しい現実(Three Tough Truths About Climate)」が話題となっている。これまで気候変動対策を重視してきたビル・ゲイツ氏がスタンスを変更したと解釈されている。 「3つの厳しい現実」とは以下だ。 1.気候変動は深刻な問題だが文明を終焉させるものではない 2.気温は気候対策の進歩を測定する指標として最適なものではない 3.気候変動に対抗するには健康と繁栄が最も重要だ これまでの気候変動対策では、気温上昇を止めることが最優先とされてきたが、気温上昇は人類の文明を終焉させるものではなく、最貧国の人々が貧困や病気に苦しむことを防ぐのがより重要だという主張だ。 主張の背景には、豊かな国々が貧困国の支援を削減していることに対する懸念がある。また、気温上昇を抑えることを重視するあまり、気候変動対策投資の優先順位を間違えているのではないかとの懸念がある。 例えば、数年前にある低所得国がGHG排出削減のために合成肥料を禁止したが、農業の生産

市場メカニズムのもとで社会課題解決をしようとしてもうまくいかないことがある。道徳的規範に訴える視点を忘れてはいけない。

マイケル・サンデル著「それをお金で買いますか-市場主義の限界-」は、いろいろなことを考えさせられる著書です。 サンデル氏は、現在は、あらゆるものがカネで取引される時代、あらゆるものが市場メカニズムに組み込まれる時代だが、その中で道徳的規範が失われ、社会が腐敗しているのではないか、と懸念しています。 ローマ教皇のミサの無料チケットをダフ屋がネットで販売する、イヌイットが伝統文化保全のために認められているセイウチ猟の権利をハンターに販売する、人の額やパトカーを企業の広告媒体として活用するなどの事例は、確かに市場の行き過ぎを感じさせます。 本ブログの中心テーマであるCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)は、市場メカニズムを通じて社会課題を解決しようとするものですが、サンデル氏の考え方には、十分耳を傾ける必要があります。 社会課題解決は、人々の道徳的規範に訴えかける側面を持っており、道徳的規範を考慮しないで、市場メカニズムを通じた社会課題解決を行おうとしても、うまくいかない可能性があります。 社会学者リチャード・ティトマスは

ブランドがサーキュラリティを高めるために活用できる8種類の消費財経験の終了形態

主なポイント: ・企業は消費者との関係構築初期に製品ストーリーを伝えることに多くの時間を費やすが、製品体験の終了時にも意味を加える機会があることに気づいていない。 ・8つの異なる「終了形態」を理解することで、製品デザイナーは冷めた取引的な関係を超え、意味のある終了体験を創出できる。 ・これにより消費者の行動変容を促し、企業のサーキュラー目標達成を加速できる。 消費者の購買プロセスにおける導入段階と使用段階の理解は大きく進歩している。ブランドはマーケティングを通じて感情的なつながりを構築し、魅力的で使い心地の良い製品を設計している。 しかし、企業はこうした消費者体験の終了段階について十分に考えてこなかった。消費者が製品の使用を中止した後—その製品がリサイクル、アップサイクル、再販される前の段階—人々は「エンドギャップ」と呼ばれる領域に入る。この段階は往々にして感情や意味を欠いている 消費者体験の終了段階は、単なる材料や資源の冷めた取引以上のものとなり得る。それは感情的な体験の場となり、サーキュラー型ビジネスモデルの成功に不可欠なものとなる。なぜなら

サステナビリティを推進するのは戦略やテクノロジーではなく人材だ。CSOが従業員を巻き込む3つの方法

企業の様々なサステナビリティ活動の成果——エネルギー消費、公正な労働慣行、ガバナンス体制、水資源・廃棄物削減など——は大きく注目されている。こうした成果はプロセスによって生み出され、そのプロセスは人によって推進される。したがってチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)...

P&Gのチーフ・サステナビリティ・オフィサーはどのようにサステナビリティビジネスを構築しているか?

P&Gのチーフ・サステナビリティ・オフィサーのヴァージニー・エリアス氏は「卓越した業績、サステナビリティ、価値創造という魔法の三冠」の実現を目指している。 主なポイント:  ・P&Gは、サプライヤーによる低炭素原料やプロセスへの投資に報いる方法を模索している。 ...

サステナビリティを通じて企業価値を向上する非財務資本の戦略的強化のカギは、企業の強み、ビジネスモデル、経営戦略との統合。価値創造プロセスでは、自社の差別化の源泉となる強み、ビジネスモデルをベースに経営戦略と非財務資本戦略の統合を描いてほしい

サステナビリティ経営の 第1の目的は「世界の持続可能性に貢献すること」だが、現実的には第2の目的である「長期的に企業価値を向上すること」も求められる 。 サステナビリティを通じて企業価値を向上する方法としては、まず私の専門でもある CSVのアプローチ がある。...

マテリアリティ特定においては、基本的なサステナビリティイシューに関するダブルマテリアリティ評価と経営イシューに関する議論を分けて行うべき

現在のサステナビリティ経営におけるマテリアリティ特定は、以下の2つまたは3つのアプローチで行うのが良いと考えている。 ①    ESRSをベースとしたダブルマテリアリティ評価 ②    パーパス・ビジョン・経営戦略にもとづく自社ならではのマテリアルイシューの特定 ③   ...

サステナビリティ/ESG経営の目的は2つある。「世界の持続可能性に貢献すること」と「長期的に企業価値を向上すること」だ。

「企業がサステナビリティに取り組む目的は何か?」と問われたら、最近は「長期的な企業価値を高めるため」などと答える人が多いのではないか。しかし拙著「サステナビリティ-SDGs以後の最重要戦略」でも主張しているが、本質的には「企業がサステナビリティに取り組む目的」は「世界あるい...

サステナビリティ・リーダーのインターフェイスは、「2040年までのバリューチェーン全体でのカーボンネガティブ」目標を掲げ、原材料から素材、製品使用、製品廃棄すべての段階の取組みを進めている。

世界最大のタイルカーペットメーカーのインターフェイスは、1994年に創業者レイ・アンダーソン氏がポール・ホーケン氏の著書に触発されて「2020年までに環境への負荷をゼロにする」というビジョン「ミッション・ゼロ」を掲げた。それ以降、再生可能エネルギーの利用や環境負荷の小さい素...

カーボンニュートラル実現の目処がたたない中、気候変動への適応の重要性が高まっている。高温や干ばつに強い農作物の開発、情報技術を活用した気候リスク分析、早期警戒システムなど、7つの適応ビジネスの機会について、自社の強みを活かして何かできるか、すべての企業が考えるべき

今年も暑い日が続いている。カーボンニュートラル実現の目処が立たない中、気温は上昇し続け、気候は不安定になり、風水害の増加は続くだろう。食料生産や感染症などへの影響にも対応していかなければならない。気候変動への適応は喫緊の課題であり、その重要性は増すばかりだ。...

アフリカ市場進出に必要なCSVの視点

第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)が8月22日まで横浜で行われた。最後のフロンティア市場と言われるアフリカと日本の関係強化に貢献する良いイベントだ。石破総理が人口の年齢の中央値が19歳のアフリカでは、若者や女性の能力向上が成長のカギになるとして、今後3年間にAIの分野...

逆風が吹いているように見えるサステナビリティについて、専門家はどう考えているか?

米国で反サステナビリティの政権が誕生するなど、サステナビリティには逆風が吹いている。一方で、形式主義に偏り過ぎたサステナビリティを見直す好機との声もある。 サステナビリティの専門家は、現状をどう考えているのか? 死んではおらず、質的に変化している。変化しなければならない。...

カーボンニュートラルがテクノ封建制を促進する世界で、ものづくりを重視し過ぎてクラウド資本への投資を怠ってきた日本企業は搾取される側になる。

ヤニス・バルファキス著「テクノ封建制」は、現在のテクノロジー社会が抱える課題を鋭く洞察している。テクノ封建制では、日本は搾取される側だが、カーボンニュートラルがそれを促進している。 「テクノ封建制」は、GAFAMに代表される巨大テック企業がデジタル空間を支配し、人々からレン...

戦略的社会貢献活動とは?-財団活動、社会貢献活動をスケールするなら本業とのシナジーは不可欠。需要創造、事業インフラの整備など、CSVの観点で戦略的に行う必要がある。

DICが大株主であるファンドからの圧力により、直営のDIC川村美術館の休館と保有美術品の売却を決めた。川村美術館は、DIC創業者らが収集した美術品の公開を目的に1990年に開館。抽象表現主義を代表するマーク・ロスコらの作品を保有する、欧州の古城を思わせる美術館だ。美術館の経...

レアアースの中国依存がリスクとなる中、アップルは自らレアアースの調達に乗り出している。日本企業も自らサプライチェーンのレジリエンシーを大胆に強化していく必要があるのではないか。

米中の貿易交渉において、中国のレアアースの影響力の大きさが改めて注目された。1980年代からレアアース生産に注力してきた中国は、世界のレアアースの約70%を採掘し、世界で採掘されたレアアースの90%以上を加工するなど、レアアース供給市場を独占している。欧米各国はレアアースの...

気候変動による食料価格の高騰が続く中、バリューチェーンのCSVにより食料調達の持続可能性を高めることが、かつてなく重要となっている

最近食料価格の高騰が続いているが、気候変動が大きな原因の一つだ。今後もGHG濃度は上昇し続け、気温も上がり続けることを考えると、構造的に食料価格には常に高騰リスクがある。 食品企業など、食料に関わる企業は、自社事業の持続性の観点からも原材料農家を支援してバリューチェーンを強...

企業のサステナビリティの取組みを促すには、開示アプローチだけでは不十分だ。

今週、日経新聞で「金融庁がサステナビリティ情報開示義務化を一部見送り、時価総額5000億円未満のプライム企業が対象外に」という記事が報道され、サステナビリティ界隈では話題になった。開示で一儲けしようと考えていたコンサル会社などにとっては、悪いニュースだ。...

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