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戦略的社会貢献活動とは?-財団活動、社会貢献活動をスケールするなら本業とのシナジーは不可欠。需要創造、事業インフラの整備など、CSVの観点で戦略的に行う必要がある。

  • takehikomizukami
  • 8月1日
  • 読了時間: 3分

DICが大株主であるファンドからの圧力により、直営のDIC川村美術館の休館と保有美術品の売却を決めた。川村美術館は、DIC創業者らが収集した美術品の公開を目的に1990年に開館。抽象表現主義を代表するマーク・ロスコらの作品を保有する、欧州の古城を思わせる美術館だ。美術館の経営としては赤字が続く一方、保有美術品の資産価値は高く、DICの時価総額約3,100億円の3分の1以上を占めるとされる。


企業が高額な美術品を資産として保有して有効活用できていないのであれば、資産を売却して事業投資や株主還元に充てるべきとするのは、株主としてまっとうな指摘と言える。


川村美術館のある佐倉市を中心に休館の撤回を求める署名が5万筆以上集まったというが、地域貢献のためにこれだけの資産を保有し続けることを正当化するのは難しい。本業との関係性、本業にとっての意義を納得性高く説明できない以上、財団をつくって本業と切り離しておくべきだったろう。


DICの例は、本業とのシナジーを生み出せない文化・社会貢献活動が肥大化することの警鐘となるものだが、本業とのシナジーを生み出す社会貢献活動は、戦略的に進めていくべきものだ。


アシックスは今年4月に、運動・スポーツに関わる社会課題に取り組み、より多くの人々の心身の健康に貢献することを目的とした一般財団法人ASICS Foundation設立した。ビジネスを展開する東南アジア、インド、日本で、社会的または経済的に困難な状況にある青少年、障がい者、女性などに対する運動・スポーツを通した支援、スポーツの普及活動、指導者の育成、グラウンド・スポーツ施設の整備、スポーツ用品の提供などを行っていくとしている。


スポーツ用品を手掛けるアシックスにとっては、スポーツ人口が増えればそれだけ自社にとっての市場が広がる。また、アシックスの支援を受けた人、その支援のストーリーに心を動かされた人は、アシックスのコアな顧客となる可能性が高い。より多くの人が運動・スポーツをするようになれば、アシックスの事業も成長するということだ。運動・スポーツ人口創造につながる財団の活動は、アシックスの本業とのシナジーがある。


アシックスが財団設立にあたって自社株式を活用していることが問題視され、議決権行使助言会社のISSから反対推奨がなされたが、アシックスは、財団活動を通じて5年後に顧客が約450万人増え、時価総額は2000億円増加するとの独自試算などをもって、株主の理解を得た。


CSVのフレームワークで言えば、アシックスの財団活動は、ビジネスエコシステムのCSVにおける需要創造、事業インフラの整備にあたる。その他、社会貢献活動を通じた知の探索、社会貢献活動による社会・環境資本の強化、サストリーの水源涵養活動に代表される自然資本の強化など、社会貢献活動は本業とシナジーを生み出すことができる。


財団活動、社会貢献活動は、CSVの観点から戦略的に行うことが重要だ。


(参考)「利益なき文化事業に批判 DIC美術館休館の波紋」日経ビジネス(2025.07.28)

 
 
 

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