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サステナビリティに関してもはや成り立たない5つの前提:グローバル目標や合意、ESG情報開示、ステークホルダー資本主義などはサステナビリティに向けた変革につながらない。

  • takehikomizukami
  • 2025年11月14日
  • 読了時間: 7分

主なポイント:

多くの企業が依存してきたサステナビリティの前提条件は、気候変動対策を前進させるどころか、むしろ阻害している可能性がある。

それは、グローバル目標への依存や、市民がサステナビリティについて共通認識を持っているという前提が成り立たないからだ。

代わりに、サステナビリティの専門家は新たなアプローチに注力する必要がある。例えば、自らがコントロールできる領域に注力し、影響力を行使できない領域では野心を抑えるといった手法で、成果を上げるべきである。


サステナビリティが2018年から2021年にかけての行き過ぎたイデオロギー主導から「健全な調整」の真っ只中にあるという主張が良く聞かれる。これに対する主流の見解は、政治的反発を避けつつ、ビジネスケースへの注力を倍増させるべきだというものだ。


これは便利な説明ではあるが、あまり説得力のあるものではない。サステナビリティが盛り上がっていたピーク時には、サステナビリティが儲かるといったビジネスケースの説明が良く聞かれた。これは誰もが恩恵を受けるWin-Winのストーリーとして語られたが、実際は非現実的なものだった。米国で現在起きている政治的な逆風がなくとも、サステナビリティと利益にはトレードオフがあることを認める方向への転換は起こっていただろう。


サステナビリティに利益を求めるROIの議論に固執するのではなく、より大きな思想的転換が必要だ。もはや通用しなくなった前提条件と非現実的な理想論こそが問題であり、新たなアプローチが必要だ。


もはや成り立っていないサステナビリティの5つの前提とその理由


まず、「サステナビリティが将来の規制を先取りするために有効だという主張はもはや成り立たない。」サステナビリティがリスクマネジメント上重要との根拠の一つは、企業が新たな規制に先んじることができるという主張だ。しかし今日、規制が断片化し不確実で世界的に不統一な状況下では、企業はサステナビリティを促進する方向に規制がなされると予測すべきではない。


第2に、「グローバルの合意が必ずしも変革を推進する手段になるとは限らない。」国連で合意された旗艦的な自主的合意がもはや信頼性や広範な信憑性を失っていることを示す一例が、世界的なプラスチック条約の締結が再び失敗に終わったことだ。ユニリーバのように政策と整合した取組みを重視する企業は、ますます国家レベルに注力するよう転換しており、政府と企業のサステナビリティ・リーダーが緊密に連携する必要性を理解している。


第3に、「市民のサステナビリティに対する考え方は、一般的に主張されているよりもはるかに個別的で複雑である。」ステークホルダー資本主義の根底にある前提は、誰もが企業に対して同じようにサステナビリティへの取り組みを求めているというものだ。しかしこの見方は単純化しすぎていることが明らかとなった。政治的な逆転現象は、一般市民の一部がこうしたサステナビリティ重視の考え方をエリート主義的で自分とは無関係なものと見なしていることを明らかにした。エネルギー転換を進めることについて化石燃料経済に依存する雇用や生計を失うことを強く懸念する人々がいることを認めるべきで、こうした不安を無視するのは得策ではない。ほぼ全ての人が清潔な空気と水を望むと同時に、自らと家族を養う能力を保持したいと考えている。したがって、基本的な公平性を最優先することが重要である。


次に、「評判リスクはサステナビリティに取り組まないと高まるという単純なものではない。」サステナビリティはこれまで評判向上をもたらすものとして位置付けられてきたため、活動家が後進企業と同様に先進企業を標的にする可能性が十分に考慮されてこなかった。スターバックスが労働者の権利問題で標的となったのは、同業界で最高の賃金と福利厚生を提供していたから、先進企業だからであり、他社より劣っているからではない。米流通企業ターゲットはDEI政策の後退で過大な監視に直面しているが、DEIで特別なことをしてきたというわけではない。企業に対するネガティブ・キャンペーンは以前より予測不可能でソーシャルメディア主導となり、NGOのスタンスは分断化している。かつてWWFやエレン・マッカーサー財団といった主導的なNGOとの協定は企業のサステナビリティへのコミットメントを示す有効な手段だった。しかし今日では、どこからともなく現れる小さな無名の組織によるソーシャルメディア主導のキャンペーンによって、こうした協定が頓挫する可能性がはるかに高まっている。要するに、評判リスクは歪んだ鏡のようなもので、自社の取り組みの野心や信頼性を測る信頼できる尺度ではないのだ。


最後に、「情報開示は変革につながらない。」ESG報告フレームワークの厳格化に数十年にわたり注力した結果、多くの進展はあったものの、不釣り合いなほどの時間と労力を吸い取られ、意味ある変革は促されなかった。スコープ3排出量やインパクト測定といった困難な議論に費やす時間が、実質的な変革に費やす時間よりもはるかに多い。結果として、プロセスに埋没してサステナビリティに向けた変革が進んでいない


新たにフォーカスすべきこと


現在、新たなアプローチが生まれ、上記の前提を乗り越えるための新たな戦略が形になり始めている。


一つの明らかなトレンドは、解決困難な広範な課題について過剰な約束を控える方向への転換である。これに取って代わっているのは、正当性と影響力への新たなフォーカスであり、企業は直接的な影響力を行使できない分野での野心を縮小し、自らがコントロールできる分野に注力している。例えばペプシは、自社の影響力が限られる気候変動やプラスチック問題の目標を縮小し、より直接的な影響力を行使できる再生農業への取り組みを強化した。これは、より思慮深く政策に関与できれば、変革を進める素晴らしいニュースと言える。


市場ベースの自主的行動だけでは全く不十分であることも、ますます広く認められるようになっている。雰囲気はより暗くなっているものの、課題の実際の規模、資金調達モデルや時間軸についてより慎重に考える必要性、そして約束やコミットメントだけでは非現実的であるという認識について、より深く向き合う姿勢が見られる。


もちろん、企業は意見を持つことを恐れており、非公開の会議でさえ、蔓延する猜疑心が目につく。これでは、2021年までは誰もが容易にできたような、私たちが必要とするコレクティブアクションや市場啓発が広がる可能性は低そうだ。企業が標的になることを躊躇する気持ちは理解できるが、それでも数に力はある。勇気と協調が必要だ。


企業活動とサステナビリティの統合への回帰も見られる。かつては企業がサステナビリティを単なるメッセージングと捉えてレポートなどで統合を表現していたが、現在ではESG報告が財務部門に移管され、多様な機能部門がサステナビリティの専門性を持つようになり実質的な統合が進んでいる。もし調達・事業オペレーション・研究開発にサステナビリティ思考が統合され、必要な専門家が配置されるならば、独立したサステナビリティ部門の役割の転換が求められる。さらに重要なのは、企業が直面するサステナビリティの課題が極めて深刻であるため、言行一致が必須となっている点だ。


私が知る最も意欲的で思慮深い企業は、より明確でフォーカスされた姿勢へと移行しつつある。複雑な専門用語を平易な言葉に置き換え、実行に真剣に取り組んでいる。これは始まりに過ぎないが、これまでのように形式的なことを繰り返し結果が出ることを期待するよりも、はるかに良いトレンドだ。


(参考)”The case for ditching 5 underlying sustainability assumptions”, TRELLIS

 
 
 

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