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気候変動による食料価格の高騰が続く中、バリューチェーンのCSVにより食料調達の持続可能性を高めることが、かつてなく重要となっている

  • takehikomizukami
  • 7 日前
  • 読了時間: 3分

最近食料価格の高騰が続いているが、気候変動が大きな原因の一つだ。今後もGHG濃度は上昇し続け、気温も上がり続けることを考えると、構造的に食料価格には常に高騰リスクがある。


食品企業など、食料に関わる企業は、自社事業の持続性の観点からも原材料農家を支援してバリューチェーンを強化していく必要がある。バリューチェーンのCSV(サプライヤーの育成)が今ほど求められているときはない。バリューチェーンのCSVを理解いただくため、ネスレの事例を紹介しよう。


グローバル食品大手ネスレは、CSVが生まれるきっかけを作った企業だ。ネスレの元会長ピーター・ブラベック氏は、2005年のダボス会議で企業による社会貢献の議論があったときに、利益を社会に還元するという考えに違和感を持ち、「企業活動は社会に価値を創造しているはず」と考えた。これがネスレの社会的役割を考え直すきっかけとなり、社会貢献活動を企業に価値を生み出すよう戦略的に行うべきという「戦略的フィランソロピー」を提唱していたマイケル・ポーター、マーク・クラマー両氏と議論をし、ネスレの中南米での活動を調査してもらった。その結果、ネスレが行なってきた社会に価値を生み出す活動が整理され、CSV(Creating Shared Value)と名付けられた。ネスレのCSVとしては、途上国の原材料農家支援を通じて、原材料の品質向上、安定調達を実現する「バリューチェーンのCSV(サプライヤーの育成」が、特筆すべきものとして挙げられた。


サプライヤーの育成の例として、ネスレは、プレミアム・コーヒー用の豆の調達に関して、コーヒー農家に栽培技術・ノウハウを提供するだけでなく、銀行融資を保証したり、苗木、農薬、肥料などの確保を支援したりするなど、様々な形でサプライヤーを支援・育成している。その背景には、ほとんどのコーヒー豆は、アフリカや中南米の貧困地域の零細農家が栽培しており、低い生産性、劣悪な作業環境の中で、ネスレが求める品質のコーヒー豆の調達が難しいという事情がある。このためネスレは、コーヒー農家を育成することを通じて、高品質な豆の安定調達を実現しようとしている。この活動は、貧困に苦しむコーヒー農家や地域の発展を促すとともに、温暖化で高品質のコーヒー豆の調達が困難になる中、ネスレの競争力強化にも貢献している。


ネスレはカカオでも「サプライヤーの育成」を展開している。最近ネスレは、カカオ農家の所得向上プログラム「インカム・アクセラレーター・プログラム」の対象農家数が、2026年までにカカオの主要供給元のガーナとコートジボワールで5万世帯に達すると発表した。さらに両国以外のカカオ農家にも段階的に拡大することを計画しており、最終的に2030年までに16万世帯となることを目指している。


同プログラムは、過去10年間実施してきた農家支援プログラム「ネスレ・カカオ・プラン」が基盤。元々は児童労働問題への対策だったが、サステナビリティ全体の向上に発展している。「インカム・アクセラレーター・プログラム」は、カカオの販売量と品質だけでなく、自然環境や地域コミュニティへの影響も評価し、報酬を支払う制度で、評価の観点には、6歳から16歳の世帯内のすべての子供の学校への就学、作物の生産性を向上させる農業実践、気候変動レジリエンスを高めるアグロフォレストリーの実施、収入源の多様化等が入っている。


2024年までの実績では、カカオ農家の世帯収入が15%増加。カカオ収量も18%増加した。女性エンパワーメント指数は18%、子どものウェルビーイング指数も31%向上した。児童労働対策では、2024年に88%の児童が学校に通学しており、2022年から7ポイント向上した。


気候変動により食料調達が不安定化する中、気候変動関連を強化したバリューチェーンのCSVが、今後の食料に関わる企業の競争力を大きく左右するだろう。

 
 
 

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