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レアアースの中国依存がリスクとなる中、アップルは自らレアアースの調達に乗り出している。日本企業も自らサプライチェーンのレジリエンシーを大胆に強化していく必要があるのではないか。

  • takehikomizukami
  • 7月25日
  • 読了時間: 3分

米中の貿易交渉において、中国のレアアースの影響力の大きさが改めて注目された。1980年代からレアアース生産に注力してきた中国は、世界のレアアースの約70%を採掘し、世界で採掘されたレアアースの90%以上を加工するなど、レアアース供給市場を独占している。欧米各国はレアアースの自前で調達しようとしているが、なかなか成果が上がっていない。


こうした状況において、アップルは、自らレアアースのサプライチェーン強化に乗り出した。アップルは、ラスベガスに本社を置く鉱山・加工会社MP Materialsとの500億ドルの複数年契約を通じて、国内のレアアースの調達を強化しようとしている。


MPは設立8年目のレアアースの専門企業で、ネオジム・プラセオジム酸化物、セリウム塩化物、ランタン炭酸塩などを取り扱っている。採掘事業に加え、MPは磁石の製造も行っている。同社は第1四半期の売上高が61百万ドルで、前年同期比25%増と報告している。


同社の技術力は米国国防総省の注目も集めている。両者は、同省および他の商業顧客への供給を目的とした新たなMP磁石製造施設の迅速な建設を後押しする10年間の契約を発表した。この契約には、国防総省がMPの株式の最大15%を購入する合意が含まれており、これにより連邦政府がMPの最大の株主となる。


GMは2021年からMPと提携しており、同自動車メーカーはテキサス州の工場からEV用の磁石を調達する契約を締結している。


アップルとMPの契約では、アップルがテキサス州フォートワースにあるMP工場の専用製造ラインから、電子機器用のネオジム磁石を購入することとしている。同施設では最終的に約50万台のEVを駆動するのに十分な量の磁石を生産する予定だ。


両社は、カリフォルニア州マウンテン・パスにあるMPの鉱山で、米国最大のレアアース鉱山である同鉱山にリサイクルラインを建設中だ。同鉱山は2023年に世界のレアアース供給量の12%を生産した。この提携は、5年間にわたる関係に基づいている。アップルとMPは、廃棄された電子機器やその他の廃棄物からレアアースを回収し、iPhoneやMacBookなどの製品に使用できる材料に変換する技術を試験的に導入してきた。


MPとの契約は、アップルが米国における製造能力の拡大に$500億を投資する計画の一環だ。この契約は、アップルが優先材料(レアアースを含む)をすべてリサイクル製品または再生可能製品から調達するという目標を支援するものだ。2024年に同社で使用された材料のうち、認証済みのリサイクル素材が24%を占めていた。


アップルの磁石の約99%は既にリサイクル素材を使用して製造されている。現在、同社は国内での調達をさらに拡大することに注力している。


レアアース問題を含む地政学的リスク、気候変動リスクなど、サプライチェーンのレジリエンシー強化は喫緊の課題だ。日本企業もアップルに倣って、自ら大胆なサプライチェーンの強化に乗り出すべきかもしれない。


(参考)” Inside Apple’s $500 million bet on U.S. rare earths”, TRELLIS

 
 
 

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