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企業のサステナビリティの取組みを促すには、開示アプローチだけでは不十分だ。

  • takehikomizukami
  • 7月11日
  • 読了時間: 3分

今週、日経新聞で「金融庁がサステナビリティ情報開示義務化を一部見送り、時価総額5000億円未満のプライム企業が対象外に」という記事が報道され、サステナビリティ界隈では話題になった。開示で一儲けしようと考えていたコンサル会社などにとっては、悪いニュースだ。


実際には、「今後、数年かけて投資家のニーズなどを踏まえて義務化の開始時期を検討する」とうことで、見送りを決定したわけではないようだが、企業の開示負担に配慮して拙速な義務化はしない方向だ。


欧州でも、CSRDの適用が2年延期され、開示内容も大幅に簡素化されることになっている。


こうした動きをみると、ESGの動きが後退しているような印象を受けるかもしれないが、これらの動き自体は、過剰な官僚的規制を現実に即して見直すもので、どちらかというと望ましい動きだ。そもそも開示要請をいたずらに厳格化しても、企業の負担が増えるだけでサステナビリティの取組みが進むわけではない。取組みリソースが開示に割かれるというマイナスの影響のほうが大きいだろう。


企業にサステナビリティ開示を求める動きは、企業にサステナビリティの取組みを促すために、ゆるやかに圧力をかける目的で始まった。グローバルの基準が定められ、情報開示が要請され、他社と比較されるようになれば、取組みも進むだろうという考えだ。そうして始まったGRIなどは、サステナビリティの流れをつくったという意味で、一定の成果をあげている。


その後、サステナビリティ推進のネックとなっていた投資家の関心を高めるために、SASBが投資家目線で業界ごとのマテリアリティを定める、サステナビリティと経営を統合するIIRCフレームワークが提示されるなどの動きが進んだ。その結果、投資家がサステナビリティを新たな儲けのネタとして捉えるようになり、ESG投資などが広がった。


投資家がサステナビリティに関心を持つようになったため、サステナビリティ情報開示を投資家向けに行うという流れが加速した。最近サステナビリティに取り組むようになった企業では、投資家向けに情報開示をすることがサステナビリティの主業務だと考えているのではないかと感じることさえある。


確かにサステナビリティ情報開示は進んでいるが、サステナビリティの取組み自体は正直停滞している。


世界の現状に問題意識を持って、世界をサステナブルな方向に変えていこうなどと考えている投資家は、極めて少数だ。大部分の投資家は、企業にはサステナビリティのトレンドを踏まえて、リスク、機会に適切な対応をしてもらえば良いと考えており、企業の野心的なサステナビリティの取組みを応援しようなどとは考えていない。そのため投資家のほうを向いていると、企業のサステナビリティの取組みも適度なものとなる。


企業のサステナビリティの取組みを促進するためにはじまった開示要請だが、企業に適度な取組みを促すことには成功しているが、本来求められる野心的な取り組みを促すことにはつながっていない。


開示アプローチ以外の取組みが必要になっているのだろう。

 
 
 

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