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サステナビリティ/ESG経営の目的は2つある。「世界の持続可能性に貢献すること」と「長期的に企業価値を向上すること」だ。

  • takehikomizukami
  • 9月14日
  • 読了時間: 4分

「企業がサステナビリティに取り組む目的は何か?」と問われたら、最近は「長期的な企業価値を高めるため」などと答える人が多いのではないか。しかし拙著「サステナビリティ-SDGs以後の最重要戦略」でも主張しているが、本質的には「企業がサステナビリティに取り組む目的」は「世界あるいは人類の持続可能性に貢献するため」である。


「企業のパーパス、存在目的は何か?」と問われた場合、「企業価値を高めることだ」と答える人は少ないだろう。「世界にどのような価値を提供して貢献するか」などを答えることが多いのではないか。世界に貢献するパーパス実現のためには、企業価値を持続的に高めることが必要で、そのためにサステナビリティを推進するといったロジックもあるかもしれないが、サステナビリティ経営とはそのような矮小なものではない。


気候変動、生態系破壊、格差など、資本主義の弊害が深刻化し、まさに新しい資本主義を構築する必要性が高まる中、その中心的役割を担うのがサステナビリティ経営である。


元来サステナビリティ経営とは、企業が環境・社会問題にどう取り組むかを問うものだった。グローバル化する企業活動に起因する環境問題、社会問題が顕在化する中、企業が責任をもって環境・社会問題に取り組むことを求めるものだった。それがESGという言葉が登場し、金融機関やコンサルタントが新たな儲けの手段と考えるようになり、「長期的に企業価値を高めるためにサステナビリティに取り組むことが必要」という論調を広めた。


それまでサステナビリティを牽引してきた人たちも、社会的責任として企業にサステナビリティ推進を求めることに限界を感じていたため、「サステナビリティ=企業価値を高める」論に乗った。


そうした背景のもと「サステナビリティ=企業価値を高める」論が広がったが、実際の取組みは従来の社会的責任論なども混ざったやや中途半端なものとなっている。サステナビリティ経営により企業価値を高めると言いつつ、社会的要請に対応してCO2排出削減や人権対応などを進めている。CO2排出削減や人権対応を進めないと将来的なコストやリスクにつながるというロジックもあるだろうが、多くはコンサルタントなどの論調に乗せられているだけだ。


サステナビリティ経営の目的がやや曖昧なままでも一定の取組みが進んでいけば良いのではないかという考えもあるかもしれないが、現状のサステナビリティ経営は情報開示要請への対応が目的となり、世界のサステナビリティへの貢献という意味でも、企業価値の向上という意味でも中途半端なものになっている。


TCFD、TNFD、ビジネスと人権に関する指導原則などに対応した環境・社会問題への取り組み、統合報告などにおけるESGの取組みと企業価値との関連性の描画などは、多くの場合形式的なものにとどまっている。やはりサステナビリティ経営の目的は明確にしたほうが良い。


サステナビリティ経営の目的は、本質的には企業が「世界あるいは人類の持続可能性に貢献するため」であるべきだが、理想論では多くの企業は動かないという現実も踏まえて、「サステナビリティ/ESG経営の目的は2つある。第1の目的『世界の持続可能性に貢献すること』と第2の目的『長期的に企業価値を向上すること』だ。」とするのが良いだろうか。


そして、拙著「サステナビリティ-SDGs以後の最重要戦略」で提示している「サステナビリティ経営の原則」にもとづいた経営を推進すべきだ。


【サステナビリティ経営の原則】

第1の原則「自社が及ぼしている環境・社会への影響に対して責任を持って対応する。」

第2の原則「世界の重要な課題に対して自社の強みを活かして貢献する。」

第3の原則「自社に影響を及ぼすイシューに戦略的に対応する。」


第1の原則は主に第1の目的に関わる。第2の原則は第1の目的と第2の目的の両方に関わる。第3の原則は主に第2の目的に関わる。


そしてサステナビリティ経営の2つの目的、3つの原則のどれにどれだけ比重をおいてリソースを配分するかがサステナビリティ戦略となる。


なお、第2の目的を重視したサステナビリティ経営を行うには、経営戦略と人的資本戦略、知的資本戦略、自然資本戦略などを連動させる必要があり、そのためには自社の経営戦略やビジネスモデルを明確化する必要があるが、これは別の機会に詳述しよう。

 
 
 

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