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カーボンニュートラルがテクノ封建制を促進する世界で、ものづくりを重視し過ぎてクラウド資本への投資を怠ってきた日本企業は搾取される側になる。

  • takehikomizukami
  • 8月9日
  • 読了時間: 2分

ヤニス・バルファキス著「テクノ封建制」は、現在のテクノロジー社会が抱える課題を鋭く洞察している。テクノ封建制では、日本は搾取される側だが、カーボンニュートラルがそれを促進している。


「テクノ封建制」は、GAFAMに代表される巨大テック企業がデジタル空間を支配し、人々からレント(地代)を搾取して富を独占する世界だ。


資本主義では、資本家が生産手段を所有して商品・サービスを生み出し、市場でそれを販売して利益を獲得する。一方、封建制では、地主は生産活動をすることもなく農奴に自分の土地を耕させて地代を奪い取る。


GAFAMのような企業は、現代の封土や荘園にあたるデジタル空間のクラウド上で、人々から使用料やデータという富の源泉、レントをふんだくっている。人々は、それとは知らず封建領主のアルゴリズムの上で喜んで活動し、データをせっせと生み出し無償でクラウド領主に提供している。


そうしてクラウド領主と自由を奪われ搾取されるクラウド・プロレタリアートの身分が固定化され格差が広がっていく。これが「テクノ封建制」だ。


日本のような自前のプラットフォームをもたない国は、DXを進めれば進めるほど、富はクラウド領主のいる米国に流出していく。そしてカーボンニュートラルがそれを促進している。何故か?


カーボンニュートラルの基本は、電化と再エネ化だが、これが日本企業の強みをなくし、クラウド領主への依存度を高めることになる。


自動車を例に取ると、カーボンニュートラルに向けて自動車は電化してEVにシフトしていく。日本企業は、高精度の機械工学と電子工学を強みにしてきた。高品質の内燃機関、エンジンから車輪に動きを伝えるギアボックス、車軸、差動装置などだ。


シンプルな機械であるEVでは、利潤の源泉は、機械工学・電子工学的強みからソフトウェアにシフトする。ソフトウェアが車を走らせ、車をクラウドにつなぎ、車からデータを引き出す。それは、クラウド資本に大きく依存することになる。資本主義の市場で利益を上げてきた日本企業は、ものづくりを重視し過ぎてクラウド資本への投資を怠ったために、クラウド領主に搾取される側になる。


自動車業界以外でもこうした動きは進んでいく。カーボンニュートラルがテクノ封建制を促進する世界にどう立ち向かうか。日本企業、日本経済は、その本質を見極めながら対応していく必要がある。


(参考)「テクノ封建制」ヤニス・バルファキス著(集英社、2025年)

 
 
 

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