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社会貢献活動を如何に戦略的に見直すか。FSGのCSR Strategy Roadmap

  • takehikomizukami
  • 2019年5月19日
  • 読了時間: 3分

CSVで世界をリードするFSGが”CSR Strategy Roadmap”というレポートを発行しています。基本的には、社会貢献活動を戦略的・効果的なものとするためのガイドラインです。


同レポートの冒頭では、「企業の社会への貢献への関心が高まっており、CEOは、5年前は関心を持っていなかった気候変動、ダイバーシティ、働き方等に自社がどう対応しているかを質問するようになっている。そのためCSR活動は、よりフォーカスした課題にインパクトを創出することが求められるよう変化している。」としています。なお、ここでのCSRは、主に社会貢献活動のことです。


FGSのレポートは、1.方向性設定(Alignment and Visioning)、2.戦略構築(Strategy Development)、3.測定と学習(Measurement and Learning)の3つのステップによるCSR戦略の変革の道筋を示しています。


最初の方向性設定(Alignment and Visioning)では、1-1.現状評価(Current-State Assessment)、1-2.ビジョン設定(Visioning)の2つのタスクを実施します。まずは、現状評価(Current-State Assessment)です。私も社会貢献活動の棚卸のコンサルをすることがありますが、過去のマネジメントの付き合いから始まったものなど、様々な経緯があり、通常、社会貢献活動のポートフォリオには統一性がありません。それを、目的と手段の二軸マトリックスなどのツールを用いて可視化して、社会へのインパクト、自社にとっての価値などを評価します。


社会貢献活動のポートフォリオの現状を共有した後、ビジョン設定(Visioning)で、現状のポートフォリオにとらわれず、将来のポートフォリオのあるべき姿を考え、社会貢献活動の方向性を設定します。このタスクでは、ポジティブな問いや探求で、個人や組織の強みや本質を発見し、それらの価値を最大化するAppreciative Inquiryのエクササイズを社内外のステークホルダーのチームで実施します。


次のステップである戦略構築(Strategy Development)では、2-1.重点課題の特定(Issue Selection)、2-2.象徴的イニチアチブのデザイン(Signature Initiative Design)、2-3.寄付のあり方の見直し(Local Giving Transformation)の3つのタスクを実施します。重点課題の特定(Issue Selection)では、社内および社外の視点から、自社が社会貢献活動で重点的に取り組む社会課題を特定します。社内の視点では、事業機会や経営課題との関連性、自社の強みやユニークネスを生かせるかなど、社外の視点では、ステークホルダーの注力課題、社会的に関心の高い課題などを、インタビュー、ベンチマーク、データ分析をもとに把握し、ワークショップで重点課題を議論します。


象徴的イニチアチブのデザイン(Signature Initiative Design)では、中長期的な社会インパクト目標と社会と企業に価値を生み出す象徴的なイニチアチブを設計します。そのために、社内の優先課題との整合、社外の期待を精査した上で、プログラムと実行プランを策定します。ここでは、課題と解決方法をマトリックス化するIntervention Matrixを用いて、重点課題に対する解決策を網羅的に把握して、取り組みを検討することが有効です。


寄付のあり方の見直し(Local Giving Transformation)では、過去の経緯もあり効果的な社会インパクトを創出できていない寄付の配分のあり方を見直します。ここは、通常、改善余地の大きいところです。


最後のステップの測定と学習(Measurement and Learning)は、CSRの取り組みにおいて大きな課題とされているものですが、現状と課題、変化をどう生み出すか、期待される成果、将来の状況などTheory of Changeの考え方をもとにストーリーを構築します。そして、短期・中期・長期の成果と将来の状況を示す成果マップを作成します。ここに指標と必要なデータ、戦略をどう進化させていくか学習のための質問を設定します。精緻な社会インパクトの定量化にこだわることなく、実質的に社会に価値を生み出せるよう、取り組みを進化させていくための枠組みを設計することが重要です。


CSR Strategy Roadmapには、FSGの20年のCSR活動支援の経験に基づく事例やツールが示されており、上記のステップをそのまま実行しなくても、社会貢献活動の見直しの参考になるでしょう。

 
 
 

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