top of page

牛肉から考える、地球ニーズと顧客ニーズを両立させるビジネスのあり方

  • takehikomizukami
  • 2022年7月23日
  • 読了時間: 3分

ビジネスの基本は、顧客ニーズに応えることです。世の中が豊かになり、価値観が多様化する中で、顧客ニーズを洞察し、それに応える製品・サービスを提供し、売上・利益を上げることが求められます。


ビジネスが多様な顧客ニーズに応えて拡大することを通じて、人々の個別ニーズが満たされるとともに、経済が拡大し多くの人々が豊かになります。そしてたくさんの人が幸せになるというのが、資本主義の基本的な考え方です。


しかし、大きな問題が2つあります。1つは、満たされない顧客ニーズがあるということです。ビジネスは、顧客ニーズに応えて、売上・利益を上げるというのが基本ですので、お金のない人々のニーズに適切に応えることができません。まず、人々がお金を持つ必要があり、教育や雇用を通じて、経済的な豊かさを得る機会を提供することが求められます。ここにビジネスで取り組む場合は、長期的な視点で、市場を創造するという考えが必要です。


もう1つは、環境への影響です。分かりやすいものとして、牛肉を例に挙げましょう。牛肉は美味しく、多くの人が牛肉をたくさん食べたいというニーズを持っています。昔は、牛肉は高価でいつも食べられるようなものではありませんでしたが、企業努力の結果、牛肉の価格は低下し、多くの人が気軽に食べられるようになりました。食肉関連産業は、顧客ニーズを満たし、経済発展にも貢献しました。


安価な牛肉は、工業型畜産による牛の大量飼育、肉の大量生産技術が進化したことにより実現したものです。現在では、世界で約15億頭の牛が飼育されています。なお、地球上の哺乳類のバイオマス量の95%以上は、人類と家畜が占めているとされていますが、牛は、人類を超えて地球上で最大のバイオマス量を占めています。


この牛の飼育、牛肉の生産の環境負荷は、莫大です。世界の温室効果ガス排出の14%は、畜産由来とされていますが、その65%を牛が占めています。牛のゲップなどからのメタンがその主要因です。牛肉1kgを作るためには、15,000kgをリットル以上の水が必要とされているように、水も大量に使用します。地球上の陸地の26%が家畜の放牧に使用され、農地の75~80%が家畜用の飼料に使われるとされるなど、莫大な土地を利用し、森林破壊に加担しています。


人々の安く牛肉を食べたいというニーズに対応することが、大きな環境負荷を生み出しています。これは、何とかしなければなりません。これからのビジネスは、顧客ニーズだけでなく、地球のニーズにも応える必要があります。地球のニーズに応えるということは、地球の上で生活する人類の持続性を確保することでもありますので、人類の長期ニーズに応えるということです。


牛肉を食べたいという顧客ニーズと地球ニーズを両立させるため、植物肉のビジネスが広がり、培養肉などの開発が進められています。顧客ニーズと地球ニーズを両立するビジネスは、これからの成長が期待されるフロンティアです。代替肉に対する顧客の先入観を取り払うなど、顧客ニーズを洞察するのではなく、地球ニーズに応える顧客ニーズを創り出すことが、今後求められるでしょう。


 
 
 

最新記事

すべて表示
ドラッカーの「5つの質問」で考える、サステナビリティ経営におけるステークホルダー・エンゲージメントのあり方

ドラッカーが開発した組織の自己評価ツールとして「5つの質問」がある。社会が組織で構成され、人々が必要とするもののほとんどが組織により提供される組織社会において、組織が正しい成果を上げるための思考を促す、シンプルですが非常に有効なツールだ。 ドラッカー曰く、「組織はすべて、人と社会をより良いものにするために存在する。すなわちミッションがある。目的があり、存在理由がある。」 正にそのとおりだ。組織と社

 
 
 
サステナビリティに関してもはや成り立たない5つの前提:グローバル目標や合意、ESG情報開示、ステークホルダー資本主義などはサステナビリティに向けた変革につながらない。

主なポイント: 多くの企業が依存してきたサステナビリティの前提条件は、気候変動対策を前進させるどころか、むしろ阻害している可能性がある。 それは、グローバル目標への依存や、市民がサステナビリティについて共通認識を持っているという前提が成り立たないからだ。 代わりに、サステナビリティの専門家は新たなアプローチに注力する必要がある。例えば、自らがコントロールできる領域に注力し、影響力を行使できない領域

 
 
 
「サステナビリティを適切に実践することで、収益性が21%向上する。」サステナビリティのビジネスケースに関する最新のレポート

サステナビリティのビジネスケースに関する議論は終わった。過去10年間の研究は、サステナビリティが優れた財務パフォーマンスにつながることを示している。 主なポイント: ・新たなデータによると、サステナビリティを適切に実践することで、収益性を21%向上させるなど、優れた財務実績につながることが示されている。 ・企業は顧客向けに価値提案を定義することが多いが、取締役会、経営幹部、事業部門リーダー向けには

 
 
 

コメント


Copyright(c) 2019 Takehiko Mizukami All Rights Reserved.

bottom of page