top of page

急速に進む航空の脱炭素化

  • takehikomizukami
  • 2021年7月17日
  • 読了時間: 3分

新型コロナ禍に苦しむ航空業界ですが、脱炭素への備えも進めなければなりません。グレタ・トゥーンベリさんがCO2を大量に排出する航空機を使わないことで、「飛び恥」など言葉も生まれ、気候変動に害を与える悪玉の印象がついています。


一方で、航空機には大きな推進力が必要であり、脱炭素は容易ではないと考えられてきましたが、ここに来て、脱炭素の動きが加速しています。


航空機の脱炭素の方法としては、自動車と同じように電動化するという選択があります。しかし、プロペラが主体で、電池重量や航続距離の課題もあり、当面は、小型航空機による単距離輸送、エアタクシーなどの用途が中心となるでしょう。また、水素航空機開発の動きもありますが、水素の貯蔵や供給、安全性の問題もあり、実用化はかなり先とみられています。


そこで当面の主流とされるのは、生物由来の原料を中心とした持続可能な航空燃料(SAF, Sustainable Aviation Fuel)です。国内でも、JAL、ANAが木くずや微細藻類を原料とするSAFをジェット燃料に混合したフライトを成功させています。


SAFについては、航空会社、航空機メーカー、エンジンメーカーがコラボレーションを通じて、様々な取り組みを行っています。


カーボンオフセットを通じて全米の国内線でカーボンニュートラルを実現するなど、サステナビリティを先進的に進めているジェットブルー航空は、ワールド・エナジーという会社から、非可食部の農業廃棄物を原料としたSAFを調達し、持続可能なバイオマテリアル円卓会議(RSB)認証も取得しています。ジェット燃料と比較すると、CO2を最大80%削減可能とのことです。なお、ジェットブルー航空は、電動航空機や水素航空機の活用によりカーボンクレジットの創出を目指すことも発表しています。


ボーイングは、オランダのSAF開発企業SkyNRGとパートナーシップを締結し、SAFの供給・利用を世界規模で実施することとしています。SAFの開発・利用拡大、認知向上に向けて、航空会社、政府、NGO等と協働していくこととしています。ボーイングは、2030年までに、すべての民間航空機を100%SAF仕様にすることを宣言しています。


航空機エンジンメーカーのロールス・ロイスは、シェルと航空業界の脱炭素に向けた協働で合意しています。シェルは自社が開発するSAFをロールス・ロイスに提供し、ロールス・ロイスは、技術的専門知識を提供し、シェルの航空機向けの新燃料開発にアドバイスを提供します。また、両社は、航空業界団体などに、2050年までの脱炭素、ネット・ゼロを働きかけていくこととしている。


革新的な技術開発も進んでいる。LanzaTechは、独自の微生物発酵技術で、CO、CO2、水素などからエタノールを生成し、SAFに転換している。CO2を回収してSAFに転換できる優れた技術を持つ。


SAFの普及を促進するための制度的枠組み構築の動きもある。世界経済フォーラム(WEF)は、SAFの新たな認証制度「持続可能な航空燃料証書(SAFc)」を創設しました。SAFcは、SAFのトラッキングと検証プロセスを通じて、中央管理の帳簿で使用量を把握するためのバーチャル会計制度です。マスバランス方式を採用し、帳簿上で管理して二重使用を防ぎます。


このようにSAFに向けた動き、航空輸送の脱炭素に向けた動きは、急速に進んでいます。自動車業界のEV化などがメディアを賑わせていますが、あらゆる業界で脱炭素の動きは加速しています。

 
 
 

最新記事

すべて表示
ドラッカーの「5つの質問」で考える、サステナビリティ経営におけるステークホルダー・エンゲージメントのあり方

ドラッカーが開発した組織の自己評価ツールとして「5つの質問」がある。社会が組織で構成され、人々が必要とするもののほとんどが組織により提供される組織社会において、組織が正しい成果を上げるための思考を促す、シンプルですが非常に有効なツールだ。 ドラッカー曰く、「組織はすべて、人と社会をより良いものにするために存在する。すなわちミッションがある。目的があり、存在理由がある。」 正にそのとおりだ。組織と社

 
 
 
サステナビリティに関してもはや成り立たない5つの前提:グローバル目標や合意、ESG情報開示、ステークホルダー資本主義などはサステナビリティに向けた変革につながらない。

主なポイント: 多くの企業が依存してきたサステナビリティの前提条件は、気候変動対策を前進させるどころか、むしろ阻害している可能性がある。 それは、グローバル目標への依存や、市民がサステナビリティについて共通認識を持っているという前提が成り立たないからだ。 代わりに、サステナビリティの専門家は新たなアプローチに注力する必要がある。例えば、自らがコントロールできる領域に注力し、影響力を行使できない領域

 
 
 
「サステナビリティを適切に実践することで、収益性が21%向上する。」サステナビリティのビジネスケースに関する最新のレポート

サステナビリティのビジネスケースに関する議論は終わった。過去10年間の研究は、サステナビリティが優れた財務パフォーマンスにつながることを示している。 主なポイント: ・新たなデータによると、サステナビリティを適切に実践することで、収益性を21%向上させるなど、優れた財務実績につながることが示されている。 ・企業は顧客向けに価値提案を定義することが多いが、取締役会、経営幹部、事業部門リーダー向けには

 
 
 

コメント


Copyright(c) 2019 Takehiko Mizukami All Rights Reserved.

bottom of page