top of page

世界のパーパスと企業のパーパスを結び付ける

  • takehikomizukami
  • 2023年5月29日
  • 読了時間: 4分

企業は、何故サステナビリティに取り組む必要があるのか?気候変動、生物多様性喪失や海洋プラスチックなどの環境問題、貧困や格差、差別などの社会問題に対し、それを生み出している現在の経済活動の主体である企業は、責任をもって対応する必要がある。


しかし、個別の環境・社会問題に対症療法的に対応するだけでは、本質的な問題解決にならない可能性がある。「将来的にどのような世界を実現すべきなのか?」その共通認識を持つ必要がある。


SDGsは、世界が目指す方向性を示そうとしているが、17ゴール、169ターゲットで構成され、数が多すぎて全体像をとらえにくい。SDGsの前文に掲げられている5P(People, Planet, Prosperity, Peace, Partnership)で全体像を理解するほうが良いだろう。


People(誰もが人間らしく生きる)、 Planet(地球環境を持続させる)、Prosperity(皆が豊かさを享受できる)、Peace(平和な世界を実現する)、Partnership(これら4Pをパートナーシップで実現する)。これをベースに考えると、環境・社会問題と経済を両立させる、目指すべきサステナブルな世界とは、以下のようなものだ。


・誰一人取り残されない世界。すべての人が、貧困、飢餓から解放され、尊厳と平等の下に、持てる潜在能力を発揮できる世界

・地球が現在および将来世代の需要を支えられるように維持される世界。気候変動問題が解決され、自然資本が維持される世界

・人々が恐怖や暴力から解放された、平和で公正な世界


簡潔にすると、「すべての人々が平和と一定の豊かさのもと潜在能力を発揮でき、地球への負荷が再生可能な範囲に収まっている世界」といった感じだ。一定の豊かさを満たしつつ(基本的なニーズが満たされない内側の円を超え)、環境の上限(外側の円)を超えない範囲内で生活していこうという、ドーナツ経済のようなイメージだ。このイメージをすべての人々が共有する必要がある。重要なポイントは、「誰か(特に弱い立場にいる人たち)を犠牲にすることはできない」、「地球環境の持続可能性と一定の豊かさを両立させる」ということだ。


このSDGsが本質的に目指す世界、「誰一人取り残さず、地球環境の持続可能性と一定の豊かさを両立させる世界」は、世界のパーパスとも言える。これを広く共有した上で、その実現を急がなければならない。


最近は、「パーパス」を掲げる企業が増えている。人々が働く意義、行動する意義を求める時代にあって、企業としても、自社で働く意義、自社の製品・サービスを購入する意義を明らかにすることが求められている。


パーパスは、「自社は、社会にどのような価値を生み出す存在か?」を掲げるのが基本だが、その際に、世界のパーパスを共有した上で、「自社は、世界のパーパスにどのように貢献する存在か?」を問うて欲しい。世界のパーパスとすべての企業のパーパスがつながり実践されていけば、サステナブルな世界が創られる。


パーパスの設定には、「遡及的アプローチ」、「将来的アプローチ」の2つがある。「遡及的アプローチ」は、企業の現在の存在理由に立脚した方法だ。過去を振り返り、組織的・文化的なDNAを体系化し、会社の歴史をよく理解、社内的な状況にフォーカスし、我々はどこから来たか、どうやってここまで来たか、すべてのステークホルダーにとっての我が社の独自性は何かなどを議論し、パーパスを設定する。「将来的アプローチ」は、将来に目を向け、我々はどこに行くことができるか、どのトレンドがビジネスに影響するか、どんなニーズや機会、課題がこの先に待っているか、我々が信じる将来的なチャンスを切り開くために、我が社はどんな役割を果たすことができるかなどを議論し、パーパスを設定する。基本的には、この両方のアプローチを組み合わせるべきだ。「世界のパーパスにどう貢献できるか」という将来的アプローチの議論、「そのために自社が培ってきた、自社ならではの価値を如何に生かせるか」という遡及的アプローチの議論を組み合わせて、パーパスを設定して欲しい。


すべての企業が「世界のパーパス」と整合するパーパスを掲げることも、目指すべき世界の要素となる。そのように働きかけるイニシアチブが必要かも知れない。


 
 
 

最新記事

すべて表示
ドラッカーの「5つの質問」で考える、サステナビリティ経営におけるステークホルダー・エンゲージメントのあり方

ドラッカーが開発した組織の自己評価ツールとして「5つの質問」がある。社会が組織で構成され、人々が必要とするもののほとんどが組織により提供される組織社会において、組織が正しい成果を上げるための思考を促す、シンプルですが非常に有効なツールだ。 ドラッカー曰く、「組織はすべて、人と社会をより良いものにするために存在する。すなわちミッションがある。目的があり、存在理由がある。」 正にそのとおりだ。組織と社

 
 
 
サステナビリティに関してもはや成り立たない5つの前提:グローバル目標や合意、ESG情報開示、ステークホルダー資本主義などはサステナビリティに向けた変革につながらない。

主なポイント: 多くの企業が依存してきたサステナビリティの前提条件は、気候変動対策を前進させるどころか、むしろ阻害している可能性がある。 それは、グローバル目標への依存や、市民がサステナビリティについて共通認識を持っているという前提が成り立たないからだ。 代わりに、サステナビリティの専門家は新たなアプローチに注力する必要がある。例えば、自らがコントロールできる領域に注力し、影響力を行使できない領域

 
 
 
「サステナビリティを適切に実践することで、収益性が21%向上する。」サステナビリティのビジネスケースに関する最新のレポート

サステナビリティのビジネスケースに関する議論は終わった。過去10年間の研究は、サステナビリティが優れた財務パフォーマンスにつながることを示している。 主なポイント: ・新たなデータによると、サステナビリティを適切に実践することで、収益性を21%向上させるなど、優れた財務実績につながることが示されている。 ・企業は顧客向けに価値提案を定義することが多いが、取締役会、経営幹部、事業部門リーダー向けには

 
 
 

コメント


Copyright(c) 2019 Takehiko Mizukami All Rights Reserved.

bottom of page