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ドラッカーとサステナビリティ

  • takehikomizukami
  • 2020年2月22日
  • 読了時間: 4分

企業がサステナビリティを経営に統合するには、当然ながら経営理論が役立ちます。これから、経営理論とサステナビリティの関係、経営理論をサステナビリティの推進にどう生かすかなど、随時述べていきたいと思います。今回は、経営学者の中でもサステナビリティと親和性の高いドラッカーの経営思想におけるサステナビリティについて述べます。


「企業は、何故、サステナビリティに取り組むのか?」これは、企業がサステナビリティを推進するにあたり、まず問わなければならない質問です。ドラッカーの答えは、以下です。


「企業にとって、社会との関係は自らの存立に関わる問題である。企業は社会と経済のなかに存在する。ところが企業の内部にあっては、自らがあたかも真空に独立して存在していると考えてしまう。事実、マネジメントの多くも、自らの事業を内部から眺めている。

しかし企業は、社会と経済のなかに存在する被創造物である。社会や経済は、いかなる企業をも一夜にして消滅させる力を持つ。企業は、社会や経済の許しがあって存在しているのであり、社会と経済が、その企業が有用かつ生産的な仕事をしていると見なすかぎりにおいて、その存続を許されているにすぎない。

社会性に関わる目標は、単なる良き意図の表明ではなく、企業の戦略に組み込まなければならない。社会性の目標が必要となるのは、マネジメントが社会に対して責任を負っているためではない。それは、マネジメントがまさに企業に対して責任を負っているためである。」


企業は、社会に役に立ってこそ存在を許されており、社会に価値を生み出さなければならないということです。そのためには、マネジメントは社会性に関わる目標を企業の戦略に組み込む必要があるということです。より具体的には、何をする必要があるでしょうか。ドラッカーは、こう言っています。


「マネジメントには、自らの組織をして社会に貢献させる上で三つの役割がある。

自らの組織に特有の使命を果たす。マネジメントは、組織に特有の使命、すなわちそれぞれの目的を果たすために存在する。

仕事を通じて働く人たちを生かす。現代社会においては、組織こそ、一人ひとりの人間にとって、生計の資、社会的な地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段である。当然、働く人を生かすことが重要な意味を持つ。

自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。マネジメントには、自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題に貢献する役割がある。」


多くの企業は、ミッションやパーパスを掲げています。その自社固有のミッション/パーパスを実現することが第一の役割、組織の中で働く人を生かすことが第二の役割です。これらもサステナビリティに関わることですが、第三の役割として、より直接的にサステナビリティ推進を求めるものとして、「社会的責任を果たす」ことを掲げています。具体的には、どういうことでしょうか。ドラッカーは、こう言っています。


「社会的責任の問題は、企業にとって二つの領域において生ずる。

第一に、自らの活動が社会に対して与える影響から生ずる。第二に、自らの活動とは関わりなく社会自体の問題として生ずる。

故意であろうとなかろうと、自らが社会に与える影響については責任がある。これが原則である。組織が社会に与える影響には、いかなる疑いの余地もなく、その組織のマネジメントに責任がある。

企業をはじめあらゆる組織が、社会の深刻な病気のすべてに関心を払わなければならない。できれば、それらの問題を、組織の貢献と業績のための機会に展開しなければならない。それができなくとも、少なくとも問題がどこにあり、どう取り組むべきかを検討しなければならない。関心を払わないということは許されない。この組織社会においては、彼ら組織のほかに、諸々の社会の問題について関心を払うべきものがいないからである。」


「自らが社会に与える影響への対応」は、CSRの考え方です。そして、「社会の深刻な病気」というのは、今で言えばSDGsに当たるでしょう。すべての企業は、SDGsに関心を持たなければならないとしています。さらに、「組織の貢献と業績のための機会に展開」というCSVの考えを述べています。企業は、CSRに基本として取り組まなければならず、SDGsには関心を持たなければならず、できればSDGsをCSVの機会とすべきであると言っています。これは、企業がサステナビリティ経営を推進する上での基本思想と言えるでしょう。

 
 
 

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