top of page

サステナビリティにおけるAI活用の現状と課題

  • takehikomizukami
  • 6月29日
  • 読了時間: 4分

生成AIが登場してから、あらゆる業務においてAIが広く利用されるようになっている。サステナビリティ領域においてもAIの利用が進んでいるが、サステナビリティメディアTrellisの”5 ways AI can help streamline sustainability efforts”という記事からその現状と課題を見てみよう。


サステナビリティの専門家であれば、マテリアリティ評価やデータ分析、レポーティングにAIを使ったことがあるか、使おうと考えているだろう。サステナビリティの専門家500人を対象とした最近の調査では、半数近くがサステナビリティ業務でAIの使用や試行を始めていることがわかった。


この成長機会を認識し、多くの企業がサステナビリティ関連の取り組みを合理化し、強化する能力を売りにするAIツールを活用し始めている。サステナビリティの専門家は、このような急速に台頭しているツールと、それを効果的に業務に組み込む方法について理解を深めることが不可欠だ。また企業は、AIツールの効果的利用に向けて、プラットフォームへの投資と人材への投資のバランスを取っていくことが必要となる。


【サステナビリティ領域におけるAI活用の現状】

サステナビリティ領域におけるAIの活用状況を調べたところ、以下のような取組みが行われているか、AI導入が可能な状況であることがわかった。


ベンチマーキングと目標設定: AIツールは、野心的かつ達成可能なサステナビリティ目標を設定する上で有用である。AIは、同業他社や競合企業のベンチマーク、技術的・運用的オプションとその予測される影響の検討に特に役立つことが証明されている。


マテリアリティとサステナビリティリスクの評価: AIは、企業の潜在的リスクを洗い出し、評価、優先順位付けして、シングル、ダブルいずれ観点でもマテリアリティの初期リストを作成するのに適している。サステナビリティリスクを特定してそれが生み出す影響を理解、優先付けするツールは、DatamaranやClimateAIなどが提供している。


データ収集とレポート作成: サステナビリティに関連するデータは、企業のITインフラの中で、多くの場合、バラバラで切り離されて存在する。AIは、大量のデータを選別して抽出・統合することに特に長けている。さらに、AIソリューションは、比較可能な企業のデータを使用したり、データを合理的に推測したりすることで、データセットのギャップを埋めることもできる。例えば、ハーシー、Trox、Nortalなどの企業は、すでにAIを搭載したプラットフォームを使用して、情報収集プロセスの合理化、レポート作成プロセスの指針となるアウトラインの作成、さらには初稿の作成まで行っている。


製品設計と原材料の選択: 企業がよりサステナブルな製品の生産に取り組む中、CADツールは、製品開発サイクルを短縮し、望ましい性能属性をモデル化し、代替材料を提案し、設計プロセスの早い段階で重要なフィードバックを得ることができるAI機能をプラットフォームに統合している。フランスのスポーツ用品メーカーであるデカスロンは、このようなプラットフォームを使用してダイビングフィンの設計を最適化し、原材料使用量とCO2排出量を大幅に削減した。


サプライチェーンの最適化: 最後に、AI ツールは、複雑なサプライチェーンをモデル化し、コンプライアンスを遵守し、レジリエンスを向上することができる。例えば、サプライチェーンプラットフォームのプロバイダーであるE2Openは、製品の需要をモデル化し、ユーザーが必要とする製品の使用量を効率的に予測できるようにするシステムなど多くの製品にAIを組み込んでおり、製造や物流を効率化して気候インパクトを軽減している。


【AI活用の課題】

AIツールの導入が、企業のサステナビリティの取り組みに大きな影響を与えていることは明らかだ。一方で、AIに必要な膨大なコンピューティング・パワーがエネルギー需要を増大させ、気候変動への影響を増大させるという懸念も生じている。IEAの報告書によると、米国経済は2030年には、主にAIアプリケーションによるデータ処理のために、アルミニウム、鉄鋼、セメント、化学品など、エネルギーを大量に使用する素材製造の合計よりも多くの電力を消費することになるという。


データ使用量の予測には不確実性があり、エネルギー需要を削減する方法も提示されているが、エネルギー使用量の増大の問題は、AI活用の広がりとともに議論を継続する必要がある。


AIは今後さらに進化し、サプライチェーンや製品開発・生産を効率化・最適化していくだろう。AIはまた、企業のサステナビリティの取り組みが気候や地域経済、資源利用などにどのようなインパクトを及ぼすかを理解し可視化することもできる。そうしたAIの進化や活用が企業や世界のサステナビリティに貢献するようにしていく必要がある。AIにはそのポテンシャルがある。


(参考)

 
 
 

最新記事

すべて表示
ドラッカーの「5つの質問」で考える、サステナビリティ経営におけるステークホルダー・エンゲージメントのあり方

ドラッカーが開発した組織の自己評価ツールとして「5つの質問」がある。社会が組織で構成され、人々が必要とするもののほとんどが組織により提供される組織社会において、組織が正しい成果を上げるための思考を促す、シンプルですが非常に有効なツールだ。 ドラッカー曰く、「組織はすべて、人と社会をより良いものにするために存在する。すなわちミッションがある。目的があり、存在理由がある。」 正にそのとおりだ。組織と社

 
 
 
サステナビリティに関してもはや成り立たない5つの前提:グローバル目標や合意、ESG情報開示、ステークホルダー資本主義などはサステナビリティに向けた変革につながらない。

主なポイント: 多くの企業が依存してきたサステナビリティの前提条件は、気候変動対策を前進させるどころか、むしろ阻害している可能性がある。 それは、グローバル目標への依存や、市民がサステナビリティについて共通認識を持っているという前提が成り立たないからだ。 代わりに、サステナビリティの専門家は新たなアプローチに注力する必要がある。例えば、自らがコントロールできる領域に注力し、影響力を行使できない領域

 
 
 
「サステナビリティを適切に実践することで、収益性が21%向上する。」サステナビリティのビジネスケースに関する最新のレポート

サステナビリティのビジネスケースに関する議論は終わった。過去10年間の研究は、サステナビリティが優れた財務パフォーマンスにつながることを示している。 主なポイント: ・新たなデータによると、サステナビリティを適切に実践することで、収益性を21%向上させるなど、優れた財務実績につながることが示されている。 ・企業は顧客向けに価値提案を定義することが多いが、取締役会、経営幹部、事業部門リーダー向けには

 
 
 

コメント


Copyright(c) 2019 Takehiko Mizukami All Rights Reserved.

bottom of page