以前、SDGsの段階論として、コミュニケーションや啓発を中心とするSDGs1.0、一部で新たな取り組みを始めるSDGs2.0、組織の在り方自体を変えるSDGs3.0、マルチステークホルダーでの取り組みを進める(大きく言えば、社会の在り方自体を変える)SDGs4.0と、SDGsの進化の段階について書きました。持続可能な経営に向けたベンチマークツールFuture-Fitを提供するFuture-Fit財団が、数百の企業のサステナビリティレポートを調査した上で、似たようなSDGsへのアプローチの分類をしています。
Future-Fit財団は、SDGsへのアプローチを、受動的(Defensive)、選択的(Selective)、統合的(Holistic)に分類し、それぞれShareholder Value、Shared Value、System Valueを追求するものとしています。
Defensiveアプローチは、多くの企業が対応しているように、既存のビジネスにおいてどのようにSDGsに貢献しているかを整理して、示すものです。CO2排出削減目標を掲げて、取組みを進めていればSDG13に貢献し、働き方改革を進めていれば、SDG8に貢献しているとするものです。企業の主目的は、株主価値や財務的リターンを創出することだと考える経営者とっては、受け入れやすいアプローチです。しかし、現状の変革(Transformation)を求めるSDGsに本質的に貢献していることにはならず、アピールし過ぎると、SDGsウォッシュとされるリスクがあります。
Selectiveアプローチは、特定のSDGsに対する取り組みを進めるものです。CSVにも似ており、企業が最もインパクトを創出できるSDGsにフォーカスするものです。ヘルスケア企業がSDG3にフォーカスするイメージです。もちろん、単に従来どおりの医薬品を提供するだけでなく、医療アクセスが十分でない人々に対する新たな取り組みなどを進める必要があります。
SDGコンパスなどでも、優先課題の特定が求められていますし、個人的には、Selectiveアプローチは有効だと思います。しかし、Future-Fit財団は、ヘルスケア企業がSDG3に貢献するだけで、水ストレスのある地域で大量のきれいな水を使用し、コミュニティの水ストレスを悪化させ、SDG6に反するような行動をするのは問題だとしています。また、医薬品の提供において、サプライチェーンの安価な労働力に依存し、SDG1の問題を解決しようとしないのも問題だとしています。SDGsの優先課題にしか対応しないのは不十分だということです。それは、そうでしょう。SDGsの優先課題を特定し、当該SDGsを中心としたインパクトの創出を進めるとしても、他のSDGsに対するネガティブインパクトへの対応も必要です。
Holisticアプローチは、企業のバリューチェーン全体におけるSDGsへのポジティブおよびネガティブなインパクトを網羅的に考慮します。SDGsへの新たな取り組みを進める場合には、それがもたらすトレードオフをしっかり予測し、対策を取ります。ある特定の地域でSDGsに貢献することが、他の地域でSDGsに悪影響を与えることがないようにします。Future-Fit財団では、Holisticアプローチを進めるべきだとしています。
個人的には、Holisticアプローチを基本としつつ、Selectiveアプローチの要素も取り入れて、自社が最も貢献できる領域で特定のSDGsに大きなインパクトを創出することが理想的だと思います。
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