セールスフォースCEOマーク・ベニオフ氏らの著書「トレイルブレイザー(開拓者)」を読みました。セールスフォースは、クラウドビジネスを開拓し、CRMのトップ企業となっています。一方で、ステークホルダーや社会に価値を生み出すという観点の開拓者でもあります。
セールスフォースは、信頼、カスタマーサクセス、イノベーション、平等という4つのコアバリューを経営の指針とし、意思決定の礎としています。マーク・ベニオフ氏らは、2004年の上場時に10億ドルだったセールスフォースの時価総額が1200億ドルを超えるまでに成長した最大の要因は、ソフトウェアやビジネスモデルではなく、「バリューに基づいた企業文化」であるとしています。テクノロジーをはじめとした競争の熾烈な業界では、優秀な人材を獲得できるかどうかが損益の分かれ目となり、トップ人材を獲得するためには、「バリューを重視する企業文化」が重要だということです。
「トレイルブレイザー」では、州政府がLGBTQ差別につながる法案を可決した際の対応など、具体的例を挙げて、如何にセールスフォースがバリューを重視し、それが本物となる企業文化を育んでいるかを示しています。また、トヨタがリコール問題で非難されているときに、どう信頼回復をサポートしたかなど、具体的な顧客との関係を通じて、バリューを重視することがビジネスにもつながっていることを示しています。
バリューに基づき企業文化がセールスフォースの強みであることは間違いありませんが、それと同時に、「1-1-1モデル」という象徴的な取り組みを行っていることも、極めて重要だと思います。「1-1-1モデル」とは、株式の1%、製品の1%、従業員の就業時間の1%を非営利団体、非政府組織、教育機関の慈善活動に捧げるプログラムです。
「1-1-1モデル」は、シンプルで分かりやすく、セールスフォースが社会に価値を生み出すことを重視している会社であることを示す、象徴的なプログラムとなっています。ステークホルダーへの訴求力もあり、セールスフォースが優秀な社員を確保・維持する大きな要因となっているのではないでしょうか。
セールスフォースは、テクノロジー企業として、STEM教育での貢献を重視しています。自社や社員の強みのある領域であるとともに、デジタルテクノロジーで働き方に変化を起こしている企業、今後、AIなどでさらに働き方に変化を起こそうとしている企業としては、子供たちを含む多くの人々が新しい働き方に適応するスキルを身に付けることを支援するのは重要です。これは、社会の変革を促進し、長期的にセールスフォースの市場を創ることにもつながります。
「1-1-1モデル」のような象徴的プログラムを持つことは、社会に価値を生み出すことを強みとする企業にとっては、重要です。SDGs/ESGの時代には、社会に価値を生み出すことを強みとしようとする企業も増えるでしょうが、それを体現する自社ならではの象徴的プログラムを考えてみては、如何でしょうか。
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