日本では東証プライム市場企業にTCFDに基づく情報開示が求められるなどの動きもあり、気候変動対応は、企業にとって必須のものとなっています。企業が気候変動に取り組む場合の基本は、GHG排出の削減およびその前提としてのGHG排出量の可視化、そして気候変動への適応です。
GHG排出量の可視化については、所謂スコープ3のバリューチェーン全体の可視化が求められており、それを如何に効率的かつ正確に行うかが課題となっています。現在、多くの企業がGHG排出量可視化・管理のクラウドサービスなどのを開発しており、AIなどを用いた高度化が進んでいます。また、業界ごとにスコープ3算出手法の開発やデータ共有プラットフォームの開発などが進められています。
GHG排出量削減については、スコープ1・2削減のためにエネルギー効率向上、再エネやヒートポンプ導入などが進められています。再エネ調達に向けて、アップルなどは、、自社で再エネ発電所を保有するほか、大型の再エネ発電所の設置が難しい日本などの国土の狭い国では、ビルの屋上などに多くの太陽光パネルを設置していています。
GHG排出削減においてもスコープ3が課題ですが、アップルなどは、自社のGHG削減で培ったノウハウをもとにしたGHG排出削減のマニュアル、再エネ導入プログラムの提供などで、サプライヤーのGHG排出削減を支援しています。また、iPhone向けのアルミ製造におけるGHG削減のため、アルミ製造大手のアルコア、資源大手のリオ・ティントとも協働しながらゼロカーボンアルミの開発を進めています。
GHG排出削減に関わる製品・サービスは、再エネ、蓄電池、CCUS、ゼロカーボン素材、代替肉、ドローン植林など、多岐にわたり提供されています。こうした市場は、レッドオーシャン化しつつあり、自社の強みを生かして差別化することが求められます。レッドオーシャンを避けるには、GHG削減という主機能の提供に必要なサブ機能を先んじて提供するという考えもあります。例えば、信越化学が、代替肉の食感を高める接着剤を提供していますが、これはGHG排出削減に貢献する代替肉の開発において必要なサブ機能を提供している例です。GHG排出削減の製品・サービスが生み出す新たな外部不経済に先んじて対応するという考えもあります。例えば、風力発電は、発電量を増やすため、ブレードが100メートルを超えるなどどんどん巨大化していますが、将来的にはブレードの大量廃棄の問題に対応する必要があります。それを見越して、ブレードのリサイクル技術を開発するなどが、GHG排出削減製品・サービスが生み出す新たな外部不経済に対応するイメージです。
気候変動への適応については、シナリオ分析をもとに気候変動の将来的な物理リスクを把握し、先行的に対応することが求められています。洪水などの急性リスクへの対策は進んでいますが、今後は、海面上昇や農作物の適地変化などの慢性リスクへの対策も求められるでしょう。
気候変動への適応は、企業にとっての機会にもなります。代表的なものが、北極海の氷が溶けることを見越した、海運会社の新たな航路開設です。製品・サービスとしては、BASFなどが高温や干ばつに強い農作物を開発しています。マイクロソフトは、情報技術を活用した気候変動の評価、監視、早期警戒のシステムを開発しています。また、気候変動により水不足が懸念される中、GEやシーメンスなどが、水浄化システムなどを開発しています。
気候変動の可視化、緩和(=GHG削減)、適応は、すべての企業が自社のバリューチェーンにおいて取り組まなければならない課題です。多くの企業が取り組むことで、そこに大きな市場が生まれます。自社ならではの強みで何ができるか、サブ機能や新たな外部不経済への対応としてどのような市場が生まれるかも含め、多様な視点で考え尽くす価値があります。
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