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パーパスと3人の石工

  • takehikomizukami
  • 2020年9月19日
  • 読了時間: 3分

経営人材について語る有名な寓話として、「3人の石工」の話がありますが、これは、パーパスの重要性を伝えるものでもあります。


旅人がある町を通りかかりました。その町では、新しい教会が建設されているところであり、建設現場では,3人の石工が働いていました。その仕事に興味を持った旅人は、1人の石工に尋ねました。「あなたは、何のためにこの仕事をしているのですか?」


その問いに対して、石工は、何を当たり前の事を聞くのだと、不愉快そうな表情を浮かべ、ぶっきらぼうに答えました。「生活をするために決まっているじゃないか。俺には食べさせないといけない家族がいる。そのために金を稼がないとな!」


旅人は、2人目の石工に、同じ事を尋ねました。「あなたは、何のためにこの仕事をしているのですか?」その問いに対して、石工は汗を拭いながら、こう答えました。「この大きくて固い石を切る為に、一生懸命努力しているのさ。腕を上げて、いつか村一番の職人になるんだ!」


旅人は、3人目の石工に、同じ事を尋ねました。「あなたは、何のためにこの仕事をしているのですか?」その問いに対して、石工は、目を輝かせ、こう答えました。「ええ、いま、私は、多くの人々の安らぎの場となる素晴らしい教会を造っているのです。」


一般的には、3人目の石工のような人材が望ましいとされています。1人目の石工は、仕事のへの取り組みが受身になりがちで、リーダーシップや創造性の発揮は余り期待できないでしょう。2人目の石工は、実際に優れた能力を持ち、組織の方向性とうまくはまれば、高い成果をあげることができます。しかし、自らの専門領域を超えて仕事をする意識は少ないでしょう。また、「個人」の視点で仕事をしている以上、組織の方向性とずれてしまうリスクが常にあります。組織で働く人材としては、最低限、組織の目的を共有する必要があります。強い組織を創り上げるには、組織の目的に共鳴して高いモチベーションを発揮する3人目の石工を、出来る限り多く創り出すことが必要です。


また、高い視点をもって仕事をすることにより、リーダーシップや創造性が発揮され、仕事の品質も違ってきます。2人目の石工のほうが、美しく形の整った石を造るかもしれません。しかし、3人目の石工は、教会を造り上げるとの目的のもと、全体の構造の中からあるべき石の形を考えたり、さらには、自らの職務を超えて、石の材料や石の組み上げ方などをいろいろと考えて、その実現のために、他者を巻き込んでいきます。


この3人目の石工と創り出すのが、パーパスです。「多くの人々の安らぎとなる場を造る」というパーパスがなければ、3人目の石工は存在しません。さらに、3人の石工は、単に目的を共有しているだけでなく、それに共感し、高いモチベーションを持って、その実現に能動的に貢献する人材である必要があります。そう考えると、パーパスは、「自社が社会にどのような価値を生み出すか」を定義するものですが、組織の人材やステークホルダーが方向性を共有し、共感でき、ワクワクできるものである必要があります。社会の向かうべき方向とパーパスが合致していることが、その前提条件となるでしょう。


自社のパーパスが3人目の石工を生み出すものであるか、社会、ステークホルダー、個人の方向性を統合し、社員の意識を高め、能動的な行動を生み出すものであるか。自社のパーパスがそういうものとなっているか、問うてみる必要があるでしょう。

 
 
 

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