サステナビリティの世界では、シングル・マテリアリティか、ダブル・マテリアリティかといった議論がなされることがある。情報開示の2大スタンダードとも言えるISSBとGRIがそれぞれの立場を取っていることなどが背景にある。
しかし、マテリアリティ評価については、シングル、ダブルの議論は意味がない。ダブル・マテリアリティの観点がないシングル・マテリアリティは、あり得ないからだ。
それを良く示しているのがTNFDだ。自然関連「財務情報開示」タスクフォースだが、企業が自然に及ぼす影響と、企業が自然にどう依存しているか、すなわち自然が企業に及ぼす影響の両方を評価するダブル・マテリアリティの考え方を採用している。自社が自然に及ぼす影響が分からなければ、自然関連の自社の財務影響も分からないからだ。
TCFDはシングル・マテリアリティとされるが、気候変動の場合は、環境・社会への影響が、GHG排出というシンプルなものだからだ。
そう考えると、ISSBがスコープ3のGHG排出量の開示を求めるのは、実質的にはダブル・マテリアリティの観点も求めているので、シングル・マテリアリティという主張とは矛盾するとも言える。今後開示対象が広がってくる中で、その矛盾も顕在化し、ISSBも実質的にダブル・マテリアリティを求める形になるのではないか。
上記のように、マテリアリティ評価は、ダブル・マテリアリティの観点で行う必要がある。マテリアリティ評価は、組織のサステナビリティ・リテラシーを高めるプロセスでもあるが、自社事業・バリューチェーンが環境・社会課題にどう影響を及ぼしているかの理解は、環境・社会課題の自社財務への影響を理解するためにも不可欠だ。
一方で、マテリアリティ評価を踏まえて、どう意思決定するか、何をマテリアリティとするかについては、シングルの考え方は良く分かる。
例えば、ユニリーバは、生物多様性と動物実験をマテリアリティとしていないが、その理由として、一部のステークホルダーにとって重要だが、まだ重要リスクとはなっていないとしている。
環境・社会影響はあったとしても、企業にとってのリスク・機会として顕在化していなければ、マテリアリティとして特定するには時期尚早という判断は良く分かる。
イメージとしては、ダブル・マテリアリティの観点で評価を行い、マテリアリティ・マトリックスを描いたとして、マテリアリティの特定は、自社(財務)への影響(マトリックスの右側)を軸に行うということだ。
マテリアリティ評価をどう行うかについては、シングル、ダブルの議論は意味がないように思うが、マテリアリティ特定の意思決定をどう行うかについては、シングル・ダブルの議論は意味がある。
サステナビリティを巡る環境変化が速い現状においては、マテリアリティ評価は2-3年ごとに行う必要があると考えるが、マトリックスの左上については、影響は理解した上で今後の動向を注視する(2-3年後に再検証する)とし、マトリックスの右側を重視した取り組みを行うといったところが落としどころだろうか。
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