東京藝大美術館で開催されているSDGs×ARTs展を見てきました。東京藝大が、芸術が持つ無限の可能性を社会に向けて伝え、実践によって示すために開始した「I LOVE YOU」プロジェクトの一環として開催されているものです。「I LOVE YOU」プロジェクトでは、2021年はSDGsをテーマとして、アーティストたちが当事者として、社会課題に取り組んでいます。
SDGs×ART展では、障がい者、ジェンダー、国籍といったダイバーシティに関連するアートプロジェクト、海洋漂流物や海洋プラスチックなどの持続可能なものの利用に関するプロジェクトなどが紹介されていました。
縄文をテーマにしたアート体験プロジェクトでは、青森の小学生とともに、植物繊維を素材とした漁網を制作していました。実際には、植物繊維の漁網などの造形物は遺跡としては残っていないのですが、「縄」のような食物繊維の造形物があっただろうこと、漁網のような形で使っていただろうことを想像して、それを実現しようとしています。こうした想像力を生かして過去のサステナブルな生活様式を再現することは、面白いですし、さらに想像力を生かして現代のサステナビリティのニーズに当てはめることなどができそうだと思いました。
個別には興味深いプロジェクトがある一方で、SDGsの文脈で期待されている世界の重要課題の解決につながりそうなものは、見当たりませんでした。アーティストがSDGsなどの課題に詳しいわけではないというのも、その理由かも知れません。しかし、アートが担える役割はあると思います。
世の中の課題は、大きく社会課題と環境課題に分けられます。社会課題は、基本的に人に関わる課題と言っていいでしょう。人が感じる苦痛、不満に関わる課題、人が健康で文化的な最低限度の生活を送るために解決すべき課題などです。環境課題は、大気、水、土壌、生物といった人間社会を支える基盤としての環境が毀損するという課題です。
社会課題の当事者は弱者であることが多く、その声は小さい。環境には声がない。社会・環境課題解決の第一歩は、こうした小さな声、声なき声を多くの人に伝えることです。今の社会においてその役割を主に担っているのは、問題意識を持った人たちが立ち上げたNPOです。しかし、NPOの発信力・影響力も限られることが多い。アートは、そうしたNPOと協力して、社会・環境課題を啓発することができるのではないでしょうか。
アートの役割の一つとして、人々に気づき、考えるきっかけを与えることがあると思います。アーティスト自身が社会・環境課題を感じて、それを伝えるのも重要ですが、社会・環境課題の専門家であるNPOの発信を増幅するほうが、より大きな役割を果たせると思います。
SDGs×ARTの取り組みは、SDGsの実現に向けて、そうした方向に進んでいくことが考えられます。
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