「計画的陳腐化」の問題をどう解消するか?拡大生産者責任、マテリアル・パスポート、100%リサイクル化など、経済成長と廃棄物・資源の新規投入ゼロを両立するサーキュラーエコノミーのチャレンジは続くだろう。
- takehikomizukami
- 6月7日
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更新日:6月8日
辞書編纂を巡る物語を描いた「舟を編む」のドラマがNHK総合で再放送されるとのこと。しかし昨今は、言葉の意味などを調べるにもネット検索のみで、辞書で調べることはほとんどなくなった。「舟を編む」に触発されたわけではないが、久しぶりに広辞苑を引いてみた。
調べたのは「消費」。①費やしてなくすること。つかいつくすこと。費消。②[経]欲望の直接・間接の充足のために財貨を消耗する行為。生産と表裏の関係をなす経済現象。
「消費」を調べたのは、サーキュラーエコノミーについて書こうと思い、「消費」という言葉が良くないのではと思い立ったからだ。しかし、「費やしてなくす。つかいつくす」のであれば問題はない。「財貨を消耗する」のも環境面から問題はない。
問題は「廃棄」にある。「廃棄」の意味は、①不要として捨て去ること。②条約などの効力を失わせること。「不要として捨て去ること」が廃棄物や汚染を大量発生させる。また、廃棄を前提とするシステムにおける新規の資源投入が土地の利用や生態系破壊につながる。
サーキュラーエコノミーは、一度経済活動に組み込んだ資源を徹底的に使い尽くし、新しい資源の投入と廃棄物の排出を最小化する経済システムだ。廃棄や新規の資源投入がもたらす問題を解決する。
現在の大量廃棄の原因となっているのが「計画的陳腐化」だ。「マテリアル循環革命」(ーマス・ラウ+サビーン・オーバーフーバー著)によれば、電灯が長寿命化により売れなくなることを憂慮した主要な白熱電球メーカーは、1924年に秘密裏にカルテルを結成し、白熱電球の寿命を1000時間に制限することを決定した。その他、電化製品は一定期間使用すると故障し交換部品が入手できなくなり、スマートフォンは短期間で機能が改良されて前の世代のものが時代遅れとなり、ファッション業界は常に新たな流行を生み出し、買い替えを促す。その結果、消費は拡大し、企業の売上・利益は向上し、経済は成長する。一方で、大量の廃棄物が垂れ流される。
経済成長は、貧困を撲滅し、栄養状態や医療事情を改善し寿命を延ばすなど、基本的には人々の生活を豊かにする。サーキュラーエコノミーは、経済成長を維持しながら廃棄物や新規の資源投入をなくしていく。具体的にはどうするか?
プロダクト・アズ・ア・サービスは、有効なアプローチの一つだ。製品を売るのではなく、サービスを売る。製品を売る場合は、計画的陳腐化で沢山売ったほうが儲かる。製品をメーカーが所有してサービスを売る場合は、製品を長く、できれば永久に使えるようにして、同じ製品から長期間サービスを提供したほうが儲かる。これにより廃棄物や新規の資源投入がなくなる。なお、リースやレンタルは、メーカーが製品を所有するものではないため、こうした効果はない。
このメーカーが所有権を持ち続けるというのは重要なポイントだ。廃棄が起こる原因は、所有権がメーカーから消費者に移り、消費者が製品の所有権を手放すことで、誰も所有者がいない、すなわちアイデンティティがない廃棄物が生み出される。
メーカーが製品やその素材を所有し続けるまではいかないが、メーカーの責任範囲を廃棄やリサイクル段階まで拡大する「拡大生産者責任」、素材がアイデンティティを持ち続ける「マテリアル・パスポート」など、サーキュラーエコノミーを促進するコンセプトや取り組みが広がりつつある。
アップルなどのメーカーは、別のアプローチとして、レアメタルやレアアースを中心に素材の100%リサイクルを進めている。概念的には、計画的陳腐化で製品の継続的な消費を促したとしても、すべての製品を回収して100%リサイクルすれば、廃棄も新規の資源投入もなくなる。
果たして「経済成長を維持しながら廃棄物や新規の資源投入をなくす」ことは可能なのか?サーキュラーエコノミーのチャレンジは、続くだろう。
(参考)「マテリアル循環革命」トーマス・ラウ+サビーン・オーバーフーバー著(2025年、彰国社)
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