「三方よし」のDNAを持つ日本企業とステークホルダー資本主義やCSVは親和性が高いとの意見があります。確かに、日本企業は伝統的に社員やサプライヤー、地域社会などに配慮する企業も多く、ステークホルダー資本主義と親和性が高いと言えるかもしれません。また、「企業は社会の公器」という考え方を持つ企業が多い日本企業は、企業価値だけでなく社会価値も重視すべきというCSVの基本的考え方を持っているとも言えます。
一方で、CSV実現のためには、イノベーションやビジネスモデル変革を実現する戦略が必要で、ここは日本企業の弱いところかもしれません。とはいえ、日本企業の特徴を活かしたCSVも考えられるはずです。
日本企業の特徴としてまず考えられるのは、「継続力」です。日本は、世界的に見て長寿企業が多く、200年以上の長寿企業の数は、世界の4割以上を占め、2位ドイツの2倍以上とされています。長寿企業の存在にみられるような企業や事業の継続性の源泉となる「継続力」は日本企業の特徴と言って良いのではないかと思います。
この「継続力」を活かしたCSVの例として、東レが1950年代から粘り強く研究開発を続け、炭素繊維を事業化した例があります。継続力を活かした日本的CSVのエッセンスは、以下の10年ほど前の日覺東レ会長のインタビューコメントに凝縮されています。
「長期の展望という意味では10年後、20年後にどのような社会が到来するかということを独自に検証し、新素材がどのように活きるのかという視点は持つようにしています。
将来的には化石燃料が枯渇し、エネルギーコストが上がるといわれています。そのような中、航空機や自動車の燃費を考えると、機体や車体の軽量化は必須条件と考えられます。そこで炭素繊維です。炭素繊維のような軽量で強度のある素材ができれば、世の中が変わるという確信はありました。」
「ただ、炭素繊維という素材そのものに自信を持っていたとしても、社会的には実績のない未熟な素材を、そう簡単に航空機メーカーが採用しないこともわかっていました。実績をつくりながら、数十年後に航空機へ炭素繊維を供給したいという目標を持つ。その一方で、短期的にどのような用途があるかを考え、規模は小さくとも収益を上げようとする姿勢も、もちろん忘れてはいません。炭素繊維の軽くて強く、弾性率が高いという特性を活かして、ゴルフクラブのシャフト、テニスラケットのフレーム、釣り竿などで採用が決まっていき、着々と技術を磨き続けてきました。だからこそ、ボーイング社の厳しい要求に応えられたのです。」
「将来性がない技術から撤退するのは当然ですが、収益を上げていない事業が必ずしも将来性がないわけではありません。将来性は、収益化までのスピードというより、社会的価値の有無だと考えています。つまり、世の中の動きや方向性に合致してさえいれば、将来的には市場で成功する確率は非常に高いと判断するのです。社会的に価値があるものには、必ず市場もあるはずだと信じています。」
「社会的に価値があるものには、必ず市場もあるはず」という信念を持ち、大きな市場が生まれるまで粘り強く取り組む。一方で、足元ではクイックヒットの成功も積み重ねる。こうした継続力を活かしたCSVは、日本企業以外にはなかなかできないのではないでしょうか。
(参考)「東レ:市場は後からついてくる」日覺東レ社長インタビュー(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2015年10月号)
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