日本のビジネスパーソンは、「三方よし」が好きです。「三方よし」は、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という、近世から明治期に活躍した近江商人の経営理念です。CSRやSDGs、マルチステークホルダー経営が話題になると、「日本企業は、三方よしの精神を昔から持っている」という話が出ます。しかし、現在の企業に本質的に求められているのは、三方よしではありません。
近江商人は、封建時代に全国各地を商圏として活動しており、当時、他国で円滑に商業活動を行うためには、自己や顧客の利益だけではなく、商業を行う地域への貢献の視点を持つことが非常に大切でした。そうした背景から「三方よし」の理念が生まれました。自らの利益だけでなく、顧客に喜ばれる商品を提供することは、ビジネスの基本ですし、地域への貢献の視点を持つことも、信頼を築き評判を高め、継続的にビジネスを実施していく上で、大事なことです。この三方よしの理念は、尊重すべきものですが、大きく2つの課題があります。
まずは、「世間よし」がローカルであることです。「世間よし」は、基本的には、ビジネスを行う地域への貢献、生産拠点や商品を販売する地域への貢献です。しかし、現在求められているのは、グローバルな課題への貢献です。自社のビジネスに関連するところでは、サプライチェーンの上流まで遡った人権や生態系破壊への対応が求められます。また、気候変動や海洋プラスチックなど、影響が世界に広がる、個々の企業というよりは、ビジネスのシステム全体に関わる課題への対応が求められています。ローカルではなく、グローバルな視点が求められています。
2つめの課題は、「世間よし」が、基本的に社会貢献であることです。近江商人は、商売で利益が貯まると、無償で橋や学校を建てたりして世間に貢献したと言われます。これは、ビジネスで稼いだ利益の一部を地域に還元するという慈善活動の考え方です。しかし、現在の企業に求められているのは、ビジネスそのものを通じたインパクトの大きい貢献、さらに言えば、ビジネスを拡大させ、それとともに社会課題解決もスケールしていくことが求められてます。利益の還元ではなく、CSVが求められています。
現在の企業に求められているのは、SDGsなどの社会課題をビジネスに統合し、他社を巻き込み、イノベーションを生み出し、大きなインパクトを創出し、社会を変えていくことです。「三方よし」は、顧客や地域社会に配慮した良い企業を生み出す理念だとは、思いますが、イノベーティブでダイナミックに社会を変革していく企業を生み出すという印象はありません。
「三方よし」もグローバルに、インパクトをスケールする形に進化していく必要があります。
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