日本人は「X」が好きなようだ。古くはCX、UXが広く使われ、最近はDXから派生して、サステナビリティの領域で日本オリジナルのSX、GXが広く使われている。CX、UXはExperienceだったが、DX以降はTransformationだ。変革が苦手な日本政府、日本企業が言葉だけでも景気のいいものをということで広めているのだろうか。言葉だけ景気がいいのは、最近の政治家にも言えることだが。
それとも日本人は言葉に対する感度が高いのだろうか。イーロン・マスクは「X」という言葉が好きで、スペースXにはじまり、ツイッターをXに変え、愛息にXという名前を付けている。クール、シンプル、覚えやすい、入力しやすいなどがその理由のようだ。日本人もイーロン・マスクと同じ感覚を持っているのだろうか。イーロン・マスクのような変革を実現するためのハードワーキングは昭和的と否定されている印象もあるが。
Transformationを「X」と表記するのは、英語ではTransformationの接頭辞「Trans」を省略する際に「X」と表記する慣習があり、「Digital Transformation」が「Digital X-formation」と省略され、その頭文字をとって「DX」となったとのことだ。なお、「Trans」には「超える・横切る」という意味があり、「Cross」と同義になるが、「Cross」は「交差する」という意味があり、視覚的に十字に交差した形をイメージすることから、「Cross」を省略する際には「X」と表記される。この関連性から、「Cross」と同義語の「Trans」を省略する際に「X」を用いるようになったとのことだ。
また、「X」は変化や不確定な要素を表す際によく使われる文字で、テクノロジー関連の文脈では、「X」が未来志向や先端技術を連想させることが多いため、「X」を使用することで、革新的で先進的なイメージを与える効果もあると言われている。そのため「X」は単なる省略形ではなく、幅広い変化や可能性を象徴するものとなっている。
日本オリジナルの「SX」だが、「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」では、「SXとは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を指す。「同期化」とは、社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を行うことを通じて、社会の持続可能性の向上を図るとともに、自社の長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上と更なる価値創出へとつなげていくことを意味している。」としている。経営レベルでのCSVの実践、それに向けた経営・事業の変革ということだろう。
このSXにも段階があると思う。大雑把に4段階で分けると、SX1.0は既存事業においてGHG排出を削減する、人権DDを実施するなどオペレーションをサステナブルなものにしていく。SX2.0は事業ポートフォリオを一部サステナブルなものに変えていく。SX3.0はパーパス、マテリアリティ、KPI/目標設定による(形だけではない)本質的な統合経営を推進する。SX4.0はサステナビリティを主目的とする企業となる、といった感じだろうか。
パタゴニア、オーステッドなどはSX4.0企業のイメージだ。ユニリーバやネスレはSX3.0企業だろうか。キリンホールディングスは事業ポートフォリオを一部健康にシフトしておりSX2.0企業といえる。その他多くのサステナビリティに積極的な企業はSX1.0の段階だ。
多くの企業には、まずSX3.0の段階を目指して欲しい。SX1.0からSX3.0に進化するには、担当部署を中心とした制度・政策対応の受け身の取り組みから、経営レベルで本質的にサステナビリティ経営を理解した能動的取り組みにしていく必要がある。まずは自社のビジネスモデルにおける本質的なサステナビリティ経営のあり方、可能性を理解すべきだ。
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