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社会・環境課題解決イノベーションは、新たな購買決定要因、KBFを創り出す必要がある。

takehikomizukami

EV市場は端境期に入ったとされる。2023年のEV世界販売台数は前年比25.8%増の約909万台で、伸び率は前年の66.4%から急減速した。一方で、HVの伸び率は31.4%(22年15.2%)に加速し、EVと逆転した。EVの需要が一巡し、成長が曲がり角を迎えた半面、価格が手ごろで充電の心配がなく、使い勝手の良いHVに人気がシフトしてきた可能性がある。しかし脱炭素に向けた動きが続く限り、中長期的にはEV市場は拡大しエンジン車の市場の大部分を奪う可能性が高い


「市場の失敗」により発生した気候変動対策は、ビジネス単独で市場を創るのは難しく、EVの場合も市場創造の初動は政策が大きな役割を果たしている。例えば35年以降にエンジン車の販売を原則禁止するEUの政策は、自動車メーカーの戦略をEVシフトに向かわせて供給側に働きかけている。一方、購入補助金や税制優遇は購買者の意思決定、需要側に働きかけている。


しかし政策的に自動車のような大きな産業を変革するだけの市場を生み出すのは限界がある。すでにドイツでは購入補助金が停止されている。EVの場合はさらに地政学的な問題もあり、米国やEUの中国製EVへの関税強化の動きが市場創造の制約となっている。


中長期的にはEV市場は拡大すると考えるが、その速度は自動車の主たるユーザーである消費者の選択にかかっている。「環境によいから」購入するユーザーも存在するが、当面はかなり市場としては限られる。「環境によい」以外の購買決定要因(Key Buying Factor=KBF)が必要だ。


自動車の主たるKBFとされる「自動車の性能やデザイン」や「価格」については、今のところEVに優位性はない。基本的な性能やデザインは、EVだからといって差別化できるものではなく、航続距離や充電時間などの課題のほうが目立つ。価格も高い。


自動車の基本機能を超えて、EVならではの価値を訴求していく必要がある。例えば、EVは蓄電池として、再エネ発電と組み合わせた電力インフラとしての価値を提供できる。エンジン車と比較してデジタル技術の割合が高いEVは、自動運転やコネクテッドサービスを相性が良い。ここで消費者にとって魅力的なKBFを生み出せることができれば、EVの普及は早まるだろう。


EVに限らず、製品・サービスのCSV、社会・環境課題解決イノベーションは、「環境にいい」「社会に貢献している」だけでは、ニッチ市場にとどまる。当該製品・サービスならではの機能などを生かして、広く顧客・消費者に訴求するKBFを創り出す必要がある。

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