米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して、人的資本に関する情報開示を義務付ける、東京証券取引所が改訂コーポレートガバナンス・コードで人的資本に関する情報開示という項目を追加するなど、人的資本への注目度が高まっています。
その理由は、企業価値の構成要素が有形資産(モノ・カネ)から研究開発力、ブランドなどの無形資産に移行しており、無形資産を生み出す源泉が人的資本だと考えられているからです。
人的資本の強化に向けて、既存の人材や組織の能力を高める、優秀な人材を確保・維持するなどは、多くの企業が優先事項として取り組んでいます。しかし、人的資本の強化には、多様なやり方があります。その一つに「未活躍人的資源」を生かすことがあります。
未活躍人的資源とは、障がい者など十分に活躍の機会が得られていない人材のことですが、こうした人材を生かして、企業の競争力を高めることができます。IBMなどでは、障がいを持つ研究者を積極的に採用していますが、その独自の感性や視点は、世界で7.5億人~10億人と言われる障がいを持った人のための製品・サービス市場、さらには、世界の3分の1を占めると言われる高齢者や非識字者が情報を得るための技術開発に生かされています。
コカ・コーラ・ブラジルでは、低所得層の若者がスキル不足で仕事を得られないというブラジルの社会問題に対して、そうした若者を教育し、小規模流通業者の戦力として生かす「コレチーボ」というプログラムを展開しています。地元NPOと協力して、若者に小売り、事業開発、起業家精神に関する研修を実施し、その後、地元流通業者と組んで、実務に就かせています。若者のスキルを高め、実務経験を積ませることで、仕入れ、プロモーション、商品化、価格設定などの分野で小売業者のパフォーマンスを改善しており、小売チャネルの強化や、対象地域でのブランド認知による売上の増加は、若者のスキルや職業能力を伸ばすための投資を大きく上回っているといいます。このプログラムは、150以上の地域で展開され、対象者は5万人を超えています。そして、その30%は、当該飲料企業やその小売パートナーに就職し、戦力として活躍しています。
SAPは、自閉症の人材を積極的に採用し、細微に注意を集中するという特性をソフトウェアの修正点の発見などに生かしています。米ドラッグストアのCVSヘルスでは、生活保護受給者を積極的に採用し、20年間で8万人採用していますが、これら従業員の定着率は、他の雇用者の2倍となっているそうです。CVSは、この取り組みを政府とともに実施し、税額控除も受けています。
「未活躍人的資源」を生かす取り組みは、SDGs(目標8)に貢献するとともに、新たな視点による差別化、ブランド価値向上などにつながります。多くの企業で、何ができるか、考えてみる価値はあるでしょう。
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