ビジネスを通じて社会課題を解決するCSVは、従来は外部不経済として収益化が難しいと考えられてきた社会課題のビジネス化にチャレンジするものだ。それを実現するには、新たなテクノロジー、新たなビジネスモデル、そして新たなコラボレーションが必要となる。
CSVにおけるコラボレーションには、政府、NGO/NPO、サプライヤー、顧客・消費者など、様々なステークホルダーとのコラボレーションのパターンがある。企業間でコラボレーションすることも多く、業種を超えたコラボレーションで新たなビジネスモデル、市場創造を行うこともある。
最近では、競合企業同士がコラボレーションすることも増えている。国内ビール大手4社が共同配送でコラボレーションし、トラック運転手の人手不足解消、CO2排出削減といった社会課題に対応しつつ、物流コストを削減しているのは、分かりやすい事例だ。こうした取り組みは、非競争分野の協働とも言われるが、競合企業同士がある部分において協調することで互いにメリットを享受するということで、協調(cooperation)と競争(competition)の2語を組み合わせて「コーペティション(co-petition)」とも呼ばれる。
コーペティションは、CSV実現の有効なアプローチだが、障壁の一つが、独占禁止法などの競争政策だ。競争政策は、企業間の公平かつ自由な競争を通じて資源を効率配分し、消費者の厚生増大、生産性向上、イノベーション促進などを実現しようとするもので、事業者が協調して自由競争を妨げることを取り締まる。これが、コーペティションの障害となることがある。実際、日用品企業が環境負荷軽減のために容器の小型化を目指して協力したことが、その普及のため値上げしないことで一致したことから、反トラスト法(独占禁止法)違反だと判断されたといった例がある。
企業は、コーペティションの実施にあたっては、競争政策に反すると見なされないよう気を付ける必要がある。例えば、KDDIは、ソフトバンクと合弁企業を立ち上げ、5Gネットワークの基地局整備を進めているが、これを進めるにあたって、投資対効果が低く、基地局の整備が進みにくい遠隔地から始めている。遠隔地域のインフラを競合同士で整備することは、競争を阻害する要因にはならないことを公正取引委員会や総務省に丁寧に説明し、協調しても良い領域だというコンセンサスを得ながら進めているのだ。
規制当局は、競合同士の提携を懐疑的に見るものだ。協力して価格をつり上げる、市場シェアを分け合うといったケースはNGだ。ただし、協調がコスト削減や需要創造などにより顧客にメリットがもたらされる場合は、規制当局は柔軟に対応する傾向がある。コーペティション実施にあたっては、規制当局の考え方を理解し、適切にアプローチする必要がある。
最近は、コーペティションが社会課題解決のために重要なアプローチであるという認識が広がり、競争政策を柔軟に運用しようとする動きもある。欧州では、気候変動対策として競争政策を柔軟に運用する可能性について議論が始まっている。欧州委員会で競争政策を担当するマルグレーテ・ベステアー氏は、グーグルやアップルに巨額の制裁金を科すなどそのタフさで知られているが、気候変動対策には柔軟な姿勢を示している。同氏が率いる事務局は、気候変動対策を推し進めるために、競争政策をどう対応させるべきか調査を始めている。競合同士がグリーン政策推進に協力できるよう、反トラスト法の例外を認めるなどの法的枠組みが必要との提案がなされている。
ビジネスによる社会課題の解決、CSVの促進には、競争政策における政府の対応も重要だ。カーボンネットゼロ実現に向け、日本政府は、こうした動きにも先駆的に対応すべきだ。
(参考)
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2021年5月号
フィナンシャルタイムズ「モラル・マネー」2021年4月14日号
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