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被災地支援CSVをどう行うべきか?その効果は?

マイケル・ポーター教授のCSVの論文は、英語版が2011年1月、日本語版が同年6月に発行されました。2011年3月11日の東日本大震災と時期が重なったこともあり、一部企業がCSVの考え方をベースに被災地支援に取り組もうと考え動き始めました。


当時、被災地支援CSVの具体的成果が生まれましたが、そのうち2つを紹介したいと思います。能登半島地震の被災地支援にも役立つことを期待します。


まずは、2013年11月5日に発売されたキリンの「氷結和梨」。キリンは、2013年1月にCSV本部を設立して、本格的にCSV推進活動をスタートしました。福島産の和梨を使用した「氷結和梨」は、そうした活動から生まれたCSVによる新製品第1号です。


風評被害などによる価格下落や購入減少など厳しい状況に置かれている福島の農業の復興支援を目的として、福島産の和梨を使用し、認知度の高い氷結ブランドで商品化したものです。缶には、「ふくしまからはじめよう」のロゴが印刷され、商品1本につき1円が、東北の農業の震災復興支援策に活用されました。


「氷結和梨」は、純粋に美味しい商品として魅力的ですが、これに応援消費も加わり、販売数は予想を超えました。消費者にとって魅力ある商品を通じて、企業の利益と被災地支援を両立するもので、キリンのブランドイメージ向上、地域との結びつきの強化にもつながりました。


これは製品・サービスのCSVであるとともに、被災地農家を支援するバリューチェーンのCSVでもあります。能登半島にも素晴らしい農作物、海産物、伝統工芸などがたくさんあります。こうした素材を生かした商品を開発し、その市場を広げることは、被災地支援のCSVとなります。


次に、富士ゼロックスの被災地での事業開発。富士ゼロックスは、東日本大震災直後から全新入社員をボランティアとして派遣するなど、復興支援に力を入れました。さらに、ボランティア活動を通じて理解した被災地の課題について、自社の強みやリソースを活かして何が出来るか、ビジネスを通じて被災地の課題を解決するCSVが出来ないかを社内で議論しました。


そうした活動が成果を生み出し、岩手県釜石市では、地域医療が抱える課題を解決するシステムを開発しました。震災後に複合機を無償で貸し出した地元医師との話し合いを通じて、緊急性の低い患者の通院が、より高度な医療を提供すべき中核病院の負担になっていることを理解。さらに対話を重ね、地域診療所の医師による訪問診療が充実すると、中核病院に通う患者が減り課題解決につながるという仮説を構築。紙カルテを電子化し、訪問先において、タブレット端末で確認できるシステムを市内の二つの診療所に導入。診療所の医師が紙カルテを持ち運ばなくて済むようにし、出発前の準備や診療後の整理を容易にして、訪問時間を増やせるようにしました。


被災地支援を通じた地域課題の理解により、新たなビジネスを創造できる可能性があります。人的資本強化にもつながるでしょう。能登半島地震においても、多くの企業がCSVの観点で被災地を長期的視点で支援することを期待します。


(参考)

「富士ゼロックス、震災被災地で事業開発-課題解決と利益を両立」(朝日新聞DIGITAL、2013年11月14日)

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