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ミルトン・フリードマンに関するいくつかの視点。サステナビリティや新しい資本主義の議論にあたっては、新自由主義の功もしっかり理解する必要がある。

サステナビリティやステークホルダー資本主義の議論になると、必ず新自由主義の象徴とも言えるミルトン・フリードマンが引用されます。


拙著「サステナビリティ -SDGs以後の最重要戦略」でも、フリードマンの「企業経営者の

使命は株主利益の最大化であり、それ以外の社会的責任を引き受ける傾向が強まることほど、自由社会にとって危険なことはない」という言葉を引用しています。そして、効率的な市場を通じて世界を豊かにするという新自由主義の意義を認めつつも、世界の目標が「富の創造、豊かになること」から、これまで述べてきた、環境や経済のバランスにも配慮した「目指す世界を実現する」ことに変化していると主張しました。


最近出版されたその他のサステナビリティ本でも、フリードマンは引用されています。「Grow the Pie」(アレックス・エドマンズ)では、フリードマンを「ジョン・メイナード・ケインズに次いで史上2番目に影響力のある経済学者」として紹介しつつ、最も引用されているのは「企業の社会的責任は利益を増やすこと」というタイトルの論説だが、大半は、その内容を否定するもので、「フリードマンを否定することが、上流社会に受け入れられる条件の1つのようになっている」としています。


しかし、多くは中身を読まずに、フリードマンの考えをステークホルダーから搾取し、環境を破壊するものだとして否定しているが、実ははるかに奥深いニュアンスがあるとして、3つ理由を上げています。


1つ目の理由は、「投資家の関心は利益だけではないが、投資家がどの社会貢献にお金を使うかは投資家が判断すべきで、企業が判断すべきではない」というものです。ある企業に投資する2人がいて、1人は人権に、1人は環境に関心がある場合、その企業が人権関連の取り組みに多額の寄付をすると、片方しか喜ばない。企業は寄付の代わりにできるだけ利益を増やして、できるだけ配当を支払えるようにすべき。そうすれば、株主は自分の関心に基づき社会貢献ができる、というものです。


2つ目の理由は、社会課題解決は、国民に選ばれ国民に対する説明責任がある国のリーダーが行うべきというものです。国民に対して説明責任のないCEOは、個人的に思い入れのある社会的大儀を支援するかもしれないということです。


3つ目の理由は、長期的に考えると、社会に貢献する以外に企業が利益を生み出す道はなく、利益の最大化はステークホルダーに対する投資につながるというものです。フリードマンは、「ある企業が小さなコミュニティの有力な雇用主である場合、そのコミュニティに心地良さを提供したり、現地行政を改善したりすることにリソースを費やせば、その企業の長期的な利益になり得るだろう。そうすることで、好ましい従業員を集めやすくなる可能性がある」と強調しています。


なお、「Grow the Pie」では、フリードマンの考え方を認めつつも、長期的利益を増やすことが目的となっており、同書が主張するパイコノミクス(企業の最終目的は社会に価値を生み出すことであり、その副産物として利益が増えると考える)とは異なるとしています。


「パーパス+利益のマネジメント」(ジョージ・セラフェイム)は、「フリードマンは、企業の唯一の責任は利益であり、利益のみに集中すべきで、その利益がどのように得られたかは問題ではない、という見方をしたが、これは彼のいた時代を反映している」としています。「当時は冷戦構造が背景にあり、自由で開かれた市場のほうが旧ソビエト連邦の計画経済より優れている、と示すことがフリードマンの狙いだった」「経営者に社会の幸福も考えて意思決定することを許せば、市場の働きを政治プロセスに変えてしまいかねない。これは中央計画経済へ向かう動きであり、政府が希少資源の分配を管理することにつながりかねず、競争や私有財産、ひいては個人の自由まで破壊される恐れがある」ということです。


なお、同書では、フリードマンの言動の下地になった、企業の内部を見る情報が株価くらいしかない、市場が完全に機能しているときは外部の影響を受けない、環境・社会問題はビジネスと無関係などの前提は、間違ったと判明するか、変化しているとしています。


結果として、すべてのサステナビリティの書籍は、フリードマンの考え方を否定していますが、表面的な理解で否定するのと、フリードマンの考えの背景、意図などを良く理解した上で否定するのでは、議論の深みも異なります。


サステナビリティや「新しい資本主義の議論にあたっては、新自由主義の功もしっかり理解する必要があります。

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