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CSVをサポートする企業文化をどう創るか。

  • takehikomizukami
  • 2020年1月5日
  • 読了時間: 5分

世界のリーディング企業の多くが経営戦略の中心にCSVを据えようとしています。こうした企業は、社会課題の解決を通じて、競争力を強化し収益を高める機会があることを理解しています。すべてのビジネス同様に、CSV戦略もどこにフォーカスするかの明確な選択あってこそ成功します。成功するCSV戦略は、社会課題を解決することがどう成長の促進、コスト削減、競争力強化につながるのかについて、論理にもとづくしっかりした議論を必要とします。


しかし、CSVの成功には、優れた戦略である以上のものを必要とします。成功するCSV戦略を実践するためには、企業は、CSV戦略を信じ、それを実現するための変革にコミットするリーダーと従業員を必要とします。言い換えれば、優れたCSV戦略も、それをサポートする企業文化がなければ、失敗します。


「企業文化に関するリーダーのためのガイド」では、「企業文化は、組織における暗黙の社会秩序である。企業文化は、態度や行動を規定し、組織において、何が奨励され、何が奨励されないか、何が受け入れられ、何が受け入れられないかを定義する。個人の価値観、動機やニーズと適切に整合すれば、企業文化は、共有目的に対して、信じられないほどのエネルギーを解き放つものだ。」としています。


どのような企業文化が、CSVに向けたエネルギーを解き放つのでしょうか?多くの信念、態度、行動を示すことができますが、CSV戦略の実践を長年アドバイスしてきた経験から、いくつか重要なポイントがあると考えます。


① 通常のビジネスでは、社会課題は外部性と考えられ、外部性を考慮せずに利益を最大化しようとします。一方、CSVでは、社会課題が利益にインパクトがあると考え、社会課題の中に機会を見出そうとします。


② 通常のビジネスでは、NGOや政府との協働は時間の無駄と考えられ、競合とのパートナーシップは競争優位を削ぐと考えられます。一方、CSVでは、NGOや政府、さらには競合と深い関係を持つことは、イノベーションをCSVの実践のために重要と考えます。


③ 通常のビジネスでは、経験のないパートナーシップや社会的イニチアチブに企業を巻き込むことは、受け入れられないリスクと考えられます。一方、CSVでは、思慮深くリスクを取ることは、収益性と競争力を最大化する基本的要素と考えます。


④ 通常のビジネスでは、四半期決算で結果を出すことは必須と考えられます。一方、CSVでは、競争優位を獲得するためには、長期的な共有価値の視点を持つことが必要と考えます。


最近スザノと経営統合したブラジルの林業企業フィブリアは、社会環境課題が収益に密接に関連していると理解している企業の優れた事例です。フィブリアでは、プランテーションやパルプ工場の近隣コミュニティと深くエンゲージすることについて、疑問を呈する人はいません。CEOが明確に示す、利益は賞賛されるものでなければならないという信念は、企業の戦略や投資の意思決定の基本となっています。フィブリアは、技術支援、地域サプライヤーへの投資により、地域の中小企業における収入の格差という課題に対応することができると理解していました。そして、このプログラムが、年間数千万ドルのコスト削減につながっています。


米国の健康保険企業ヒューマナは、2020年までにコミュニティの健康を20%向上するという野心的な目標にコミットしています。コミュニティの健康が向上することは、保険金などの支払いが減ることを意味するため、ヒューマナにとってのCSVとなります。この野心的目標の実践を成功させるためには、様々なパートナーシップを必要とし、ヒューマナは、コミュニティとの深いパートナーシップを奨励する企業文化を醸成しました。NGOや高齢者を支援する他企業とのパートナーシップで、ヒューマナの会員が健康的な生活を送るために必要な社会的課題を解決しています。


企業文化を形成することは、非常に難しいものです。企業文化は、見ることができず、長年の企業の歴史やパフォーマンスにより培われたメンタルモデルに根付いています。しかし、企業がCSV戦略を構築したいと切望するなら、優先的に企業文化を醸成しなければなりません。そのためのポイントがいくつかあります。


1.既存の企業文化を客観的に評価し、あるべき文化とのギャップを特定します。特定の機能組織や地域に存在するかも知れないサブの文化にも留意します。リーダーは、深いパートナーシップの構築に野心的ですか?マネージャーは、ビジネスと社会課題との関係を理解し、それを戦略に結び付けようとしていますか?そうした問いをしてみるのも良いでしょう。


2.従業員とリーダーがCSVを受け入れるパフォーマンスマネジメントを活用します。企業の評価や報奨がCSVへの欲求をサポートするようにします。


3.CSV文化を体現しているリーダーを見出し、昇進させます。短期的な成果ばかりを追求し、企業の長期的な競争力に影響する社会課題を無視するようなマネージャーが昇進しているのを従業員が見るようであれば、CSVをサポートする企業文化を醸成することは期待できません。


4.企業文化の変化を促進するために影響力のある企業文化変化のチャンピオンを見出します。社会環境課題とビジネスの関係について、組織全体でダイアログが進むような構造を創り出します。


それぞれの企業の文化はユニークなものですが、それは、CSV推進のカギを握るものです。


(参考)この記事は、FSGのコラムを参考としています。

 
 
 

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