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1.5℃目標実現には、「予防原則」と「20マイル行進が必要」だ!

takehikomizukami

IPCCは、「人間の影響が温暖化させてきたことは疑う余地がない」と断言しています。しかし、「温暖化は人為的な温室効果ガスの増加に因らず、自然要因の影響がはるかに大きい」など、温暖化懐疑論も根強くあります。確かに、人間活動によるCO2排出およびCO2濃度の増加、CO2による温室効果、近年の気温上昇は事実ですが、人間活動によるCO2排出増加の気温上昇への寄与度、また、気温上昇の気候などへの影響には、不確実性があります。


では、不確実性があるから対応しなくて良いかというとそうではありません。温暖化/気候変動が人類社会に深刻な影響を及ぼす可能性があるのであれば、「予防原則」に基づき対応すべきです。


予防原則とは、環境保全や化学物質の安全性などに関して、環境や人への影響の因果関係が科学的に証明されていない場合でも、深刻な、あるいは不可逆的な被害の恐れがある場合は、予防のために政策的決定を行うという考え方です。温暖化/気候変動について想定されている影響の深刻さを考えれば、予防原則を採用すべきです。欧州が環境政策で先行しているのは、予防原則が広く採用されているためです。


一方で、予防原則に基づいて政策を進めるとしても、その実施にあたっては、現実に向き合う必要があります。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰を受け、欧州で石炭火力の比率が増加するなど、化石燃料回帰の動きがあります。米国でも、最高裁が環境保護庁には発電所の炭素排出量を規制する権限がないと判断するなど、温暖化/気候変動対策に逆風となる動きもあります。フランスでは、2018年に、気候変動対策を進めるマクロン政権による燃料税引き上げに反対する広範囲な抗議デモ「黄色いベスト」が起こりました。


各国が2050年までのGHG排出ネットゼロ、2030年までの50%前後の削減を目標に掲げていますが、国民の意識が十分醸成されていない、反対勢力の影響力もある、エネルギーの安定供給、価格高騰などの現実に対応する必要があるなどを考えると、その実現は容易ではありません。


パリ協定の産業革命以前からの気温上昇1.5度C以内に抑えるという目標を実現するには、

毎年GHG排出を7.6%ずつ削減する必要があるとされます。実際は、新型コロナの影響を受けて経済活動が大きく停滞した2020年でもCO2排出は前年比5.8%減、2021年に至っては、前年比6%増で、過去最高水準となっています。


様々な意見や足元の現実に対応していては、毎年7.6%レベルのGHG削減は、到底実現できないでしょう。強いリーダーシップやコミットメントが必要です。そして、脱炭素の「20マイル行進」を継続する必要があるのではないでしょうか。


20マイル行進とは、経営書のベストセラーで、多くのビジネスパーソンの愛読書となっているビジョナリーカンパニーシリーズの第4弾で示されている概念です。


ビジョナリーカンパニー④では、経営基盤が脆弱な状況から偉大になった企業の成功要因の示しており、その1つとして規律を持つこと、順風でも逆風でも着実に一定の速度で成長する「20マイル行進」を行っていることを挙げています。南極点に人類で初めて到達したアムンゼンが「毎日20マイル進むことを決め」雨の日も風の日もとにかく1日20マイルは進むぞと着実に進み結果を得たとことに由来しています。なお、20マイル行進では、厳しい状況下でも断固として20マイル進む一方、快適な状況下でも行き過ぎて体力を消耗しないよう自制することが重要とされています。


GHG削減については、7.6%以上削減できる年は、それ以上削減することは問題ありませんが、政治的に厳しい状況でも、突発的な事象が発生した場合でも、断固として必要な削減を行うという規律が必要ではないでしょうか。現実に即して柔軟に対応することが必要と考える政治家がほとんどでしょうが、それでは、1.5℃目標は達成できません。


「予防原則」と「20マイル行進」、これがパリ協定の1.5℃目標を実現するために必要な考え方です。


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