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トレードオンを生みだす思考

日本のサステナビリティの世界では、「トレードオン」という言葉がかなり定着してきた。社会や環境に良いことをしようとすると、それはコストになる、経済価値=利益と社会・環境価値は、トレードオフとなるという根強い考えに対して、それを両立させるものだ。経済価値と社会・環境価値を両立させるということで、サステナビリティ領域では、CSVに近い意味を持つ言葉だ。


これまでビジネスパーソンは、事業拡大のためにはCO2排出の増加も仕方がない、顧客に安価な製品を提供するにはサプライヤーの労働条件がある程度犠牲になるのはやむを得ないなど、トレードオフ思考が身に付いていた。一方で、テクノロジーやビジネスモデルの進化により、トレードオフの実現可能性は高まっており、トレードオフ思考を脱却すれば、そこには大きな機会がある。


トレードオフ思考を脱却するには、まずは、トレードオンの可能性を考える癖をつけることだ。トレードオンを生み出すには、以下のような思考が有効だ。


1. トレードオフを構造化(可視化)する。

2. トレードオフのパターンを壊す。

3. 強制発想する。


例えば、前述の事業拡大とCO2排出の件について言えば、事業(拡大する⇔拡大しない)、CO2排出(増加する⇔増加しない)という形で、まず、トレードオフ関係を構造化する。そして、事業を拡大するとCO2が増加するというトレードオフのパターンを壊す形として、「事業を拡大するがCO2排出を増加しない」、「そもそも事業を拡大しない」を想定する。そして、このトレードオフを壊したパターンを実現するアイデアを強制発想する。


「事業を拡大するがCO2排出を増加しない」については、さらに、事業を拡大しても「CO2排出を増やさない」、「ゼロにする」、「マイナスにする」といった形でトレードオフのパターンを壊すオプションを整理して考えると、多様なアイデアが生まれる。「CO2排出をゼロにする」は、バリューチェーンの排出源をすべてゼロにするか、オフセットするかということで、考えやすい。「CO2をマイナスにする」は、事業内でCO2を原料として使うか、事業外でCO2の吸収源に投資するということで、こちらも考えやすい。


さらに「事業を拡大しない」というオプションを提示すると、「製品の供給量を増加させない」=「サービスとしての製品提供(Product as a Service)」といった形でアイデアが広がる。


こうしてトレードオンのアイデアを広く強制発想した上で実現可能性を検証していくと、結構トレードオンを実現できるオプションがあることが分かるものだ。トレードオンの実現を妨げているトレードオフ思考を構造化し、それを壊すアイデアを強制発想するといった思考プロセスが根付いていけば、トレードオンの機会を先取りできる組織となるだろう。

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