サステナビリティ人材に求められる5つのコンピテンシー
- takehikomizukami
- 5月1日
- 読了時間: 4分
企業がサステナビリティ経営を推進し、サステナビリティ推進組織が必要な役割を果たそうとする場合、どのような人材が必要だろうか。多くのビジネスリーダーは、自社のサステナビリティ人材のスキルが不十分だと考えているのではないだろうか。サステナビリティの知識やスキルは、今後、サステナビリティに関わるリスクが高まることが想定される中、それを感知し適切に対応するために必要となる。また、CSVの機会を捉え、他社に先んじて新しい市場を開拓するためにも必要となる。サステナビリティに関するコンピテンシーを理解し、それを強化することは、長期的な競争力を維持・強化するために、不可欠と言える。
サステナビリティを推進する人材に関して、ストランドバーグというビジネスとサステナビリティに関するコンサルティング会社が、サステナビリティ・リーダーに求められる3つのスキルと2つの知識の5つのコンピテンシーを提唱している。その5つとは、「システム思考」、「外部コラボレーション」、「ソーシャル・イノベーション」の3つのスキルと「サステナビリティ・リテラシー」、「アクティブ・バリュー」の2つの知識だ。
なお、コンピテンシーは、ハーバード大学の行動心理学者であるマクレランド教授が、成果を上げる人たちの行動特性を調査して生み出した概念で、仕事に関する人間の能力を因数分解し、成果に影響する因子を取り出し、これをコンピテンシーと呼んだものだ。コンピテンシーを使って人材を分析することで、その仕事に必要なコンピテンシーを十分に持っているか、足りないコンピテンシーは何で、それを教育などでどう開発するか、などが理解できる。
「システム思考(Systems thinking)」とは、「概念的思考」、「統体的思考」とも呼ばれる、様々な事柄の断片でなく全体像を捉え、そこから問題点を発見し、解決していく思考様式だ。サステナビリティやCSVおいては、バリューチェーン、ビジネスエコシステムなどを時間軸も含めて俯瞰的に理解する思考様式は、基本的スキルと言える。
「外部コラボレーション(External collaboration)」について、サステナビリティやCSVにおいては、顧客やサプライヤーだけでなく、競合や他業界とのコラボレーション、政府やNGO/NPOとのコラボレーションなど、外部とのコラボレーションが重要であることは、「CSV実現に向けたコラボレーション」のところで述べたとおりだ。外部とのコラボレーションを積極的に行おうとする行動様式は、必要な資質だろう。
「ソーシャル・イノベーション(Social innovation)」とは、ここでは、様々なサステナビリティ課題をビジネスにとっての成長機会と捉える思考様式、行動様式のことだ。固定観念に囚われず、社会価値と企業価値を両立しようとする、社会起業家的なコンピテンシーと言える。
「サステナビリティ・リテラシー(Sustainability literacy)」とは、社会・環境のトレンドを感度高く捉え、機会やリスクなどビジネスとの関連性を理解するものだ。ビジネスが社会に対して果たすマクロ的役割の変化から、個別の社会・環境に関する動きがどのようにビジネスに影響するかのミクロ的視点まで、社会・環境とビジネスの接点に関する知識は、サステナビリティの基本だ。
「アクティブ・バリュー(Active values)」を持つ人は、自分および他者の感情やモチベーションに敏感だ。また、自らを大きな目的の一部と考え、社会を良くするためにビジネスを活用することにモチベーションを持っている。こうした大きな目的を見据えつつ、他者の感情に理解を示すことで、共有目的を持った人々を社内外の人々の共感を得て巻き込み、サステナビリティ経営を実現することができる。「大きな目的に向けた多様性の受容」という言い方でも良いかも知れない。
これら5つのコンピテンシーは、サステナビリティの推進において重要なのは、間違いない。サステナビリティを本格的に推進する場合は、こうしたコンピテンシーを持つ人材が、組織のリード役となることが望ましい。
こうした人材を内部で育成するのは、難しいかもしれない。サステナビリティ経営の本格的
推進にあたって、海外では、外部からサステナビリティ領域のリーダー人材を採用し、チーフ・サステナビリティ・オフィサーなど、役員クラスに据えるということが良く見られる。
アップルは、サプライヤーを巻き込んだ再生可能エネルギー100%を推進するなど、すっかりサステナビリティの先進企業になっているが、それをけん引しているのは、元米国環境保護庁長官のリサ・ジャクソン環境·政策·社会イニシアチブ担当副社長だ。2009 年から2013 年までオバマ政権で環境保護庁長官として、温室効果ガス削減政策等を進めたジャクソン氏は、その知識やネットワークを活用して、アップルを本格的なサステナビリティ企業に変革させている。
「日本にはそんな人材はいない」という声も聞こえてきそうだが、企業以外にも目を向ければ、ある程度のコンピテンシーを持った人材はいる。また、その気になれば海外からも採用できる。
(出所)「サステナビリティ -SDGs以後の最重要生存戦略」水上武彦著
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