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脱炭素目標はムーンショットにしなければ意味がない

気候変動が、世界が解決すべき最重要課題として認識され、パリ協定に基づく1.5℃目標実現に向けて、各国政府、自治体、グローバル企業などが、2050年までのGHG排出ネットゼロを目標に掲げるようになっています。しかし、2050年目標については、「まだ先のことであり、世の中の潮流に合わせてとりあえず掲げておこう」となっていることも多いように思います。


しかし、とりあえず掲げたネットゼロ目標にさほど意味があるとは思えません。ネットゼロは本気で取り組まなければ実現できるものではなく、1.5℃の実現に貢献できません。

では、ネットゼロに意味を持たせるにはどうすれば良いでしょうか。そのためには、ネットゼロを「ムーンショット」にする必要があります。


ムーンショットは、米国第35代ジョン・F・ケネディ大統領が、1962年に「1960年代が終わる前に、月面に人類を着陸させ、無事に地球に帰還させる」 という目標を掲げ、実現したことに由来する「困難だが、実現によって大きなインパクトがもたらされる、壮大な目標・挑戦」のことです。最近は、ビジネス用語として広く使われるようになっており、日本政府もムーンショット型研究開発制度を推進しています。


イノベーション・コンサルタントのスコット D. アンソニー氏は、優れたムーンショットには3つの要素があるとしています。1つ目は、人を魅了し、奮い立たせるものであること(inspire)、2つ目は、信憑性(credible)、3つ目は、創意あふれる斬新なものであること(imaginative)です。ネットゼロ目標をムーンショットにするには、こうした要件を満たすことが求められます。


企業であれば、ネットゼロを実現することで、どのような世界を創ろうとしているのか、「人を魅了し、奮い立たせる」ビジョンを描くこと、そして、その実現に向けて何をしていくのか、「創意あふれる斬新な」取り組みを進めることにコミットすることが必要です。そうすることで、社員をはじめとするステークホルダーを惹きつけ、意識を一体化し、強い推進力を生み出します。


また、信憑性も重要です。とりあえず掲げただけのネットゼロ目標では、信憑性がなく、誰も本気で取り組もうとしません。ケネディ大統領のムーンショットは、発表前に、ジョンソン副大統領に命じて基礎となる技術トレンドを詳細に調査させ、目標達成の可能性があることを確認した信憑性のあるものでした。


ネットゼロ目標の信憑性を高めるには、2030年などの中間目標を含めた明確なロードマップを描くこと、それ向けて足元の取り組みに大胆にリソースを投入すること、透明性を持って情報を開示しPDCAを回すことなどが、必要です。目標実現に向けて大胆な取り組みを進めることで、本気度が伝わり、目標の信憑性が高まります。


例えば、マイクロソフトは、まざに「気候ムーンショット」と称して、2030 年までにカーボンネガティブ企業になる、そして 2050 年までに、マイクロソフトが創業した 1975 年以来直接排出してきたカーボンをすべて除去する目標を掲げています。そして、インターナルカーボンプライシング(ICP)のスコープ3への拡大、4年間で10億ドルのCO2削減・除去テクノロジーへの投資などを実施し、年次でカーボンネガティブに向けて進捗をレポートとして纏めて開示しています。


マイクロソフトの創業以来のカーボンをすべて除去するという目標は野心的で、人を魅了し、奮い立たせるものであり、創意あふれる斬新なものです。そして、ICPや炭素除去テクノロジーへの大胆な投資、透明性を持った情報公開によるPDCAの推進などの取り組みを進め、その信憑性を高めています。


カーボンネットゼロ目標は、このようにムーンショットとして掲げなければ、意味がありません。こうした企業が増えることなしに、1.5℃目標が実現されることはないでしょう。

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