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TCFDを、中長期戦略を語る共通言語とすべき!

フィリップスは、「2025年までに30億人の人々の生活を改善する」という壮大なビジョンを掲げています。その実現に向けて、世界各地域でフィリップスの製品とソリューションが何人の生活に影響を与えているか、算出し公開しています。フィリップスのHPにある世界地図をクリックしてみると、日本では、2017年に2,600万人の生活を改善しているとのことです。


フィリップスが提供する「生活改善」の大きな柱が、人々の健康の治療(ケア)的側面を支援するソリューションです。フィリップスというと従来は家電のイメージがあり、実際、2011年には売上の半分を家電事業が占めていましたが、その後、大きく事業ポートフォリオを組み替えて、現在はほぼ100%ヘルスケア企業になっています。


フィリップスは、世界シェア1位で安定的な利益を出していた照明事業を分離するなど、大きなポートフォリオ転換を事業が好調な中で行っています。日本企業だと、V字回復というと聞こえは良いですが、大きな経営不振に陥ってからポートフォリオの転換を行うというケースが目立ちます。当然ながら、経営不振に陥ることなく将来に向けて事業構造を転換していくほうが優れた経営です。しかし、事業が好調な中で事業構造を転換しようとすると、様々なステークホルダーの反対があります。それを乗り越えるには、どうすべきでしょうか。


中長期的な世界や市場の見通しやビジョンをステークホルダーと共有することが重要です。欧州の別企業の事例ですが、シーメンスも、原子力や携帯電話から撤退し洋上風力やIoTに注力するなど、大胆なポートフォリオ転換を進めています。その意思決定を支えているのが、Picture of the Future (PoF)と呼ばれる10年以上先の長期予測です。PoFは、5年に1度、10人以上の専属チームにより、世界中の専門家の協力も得ながら、世界のトレンドを整理し、仮説検証を通じて、6~9か月かけて策定されます。02年にはすでにIoT事業につながるデジタルインタストリーズ事業の絵が描かれています。PoFのような世界観に基づくビジョンをステークホルダーと共有することで、長期的な意思決定の納得性を高めることができます。


中長期な世界や市場の見通しを描くという意味では、最近は、TCFD勧告に基づくシナリオ分析が注目されています。多くの企業は、今のところ「シナリオ分析の結果、現在のままの事業ポートフォリオでも問題なし」としています。シナリオ分析を現在の事業ポートフォリオの財務的正当性を伝えるために使うのも良いですが、長期的な事業ポートフォリオ転換に向けて、そのビジョン・戦略の正当性をステークホルダーに伝えるのにこそ使うべきです。


そのためには、シーメンスのPoFのように、気候変動に限らず、幅広いトレンドに基づくシナリオ分析が望ましいですが、気候変動関連のシナリオだけでも、精査していくと多様な影響が見えてきます。資源・エネルギー業界において、再生可能エネルギーやCCSの取り組みでシェルが先行しているのも、シナリオ分析の下地があるからでしょう。


TCFDは、義務的に対応するものではなく、将来のビジョンを構築・共有・実現するツール、ステークホルダーとの中長期的共有価値創造のコミュニケーションの共通言語としてこそ活用すべきものです。


(参考)

日経ビジネス2019,05.27号

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