top of page
検索
takehikomizukami

SDGs採択から5年、戦略的SDGsの推進を考えるべきとき

2015年9月にSDGsが採択されてから5年が経ちました。SDGsはかなり浸透し、普通にメディア等で報道されるようになり、SDGs本も多数出版されてそこそこ売れているようで、SDGsバッヂを付けるビジネスパーソンも、大手町・丸の内あたりでは、当たり前になりました。


このようにSDGsという言葉は浸透していますが、SDGs実現に向けた取り組みが進んでいるかというと、クエスチョンが付きます。コミュニティ活動などで、SDGsをテーマにしたワークショップを行われるといったことは増えていますが、そこから何かが生まれるわけではありません。企業も統合報告やサステナビリティレポートにおいて、自らの活動にSDGsのロゴを紐づけるケースは増えていますが、そこから新しい価値が生み出されることはありません。SDGsの社内研修なども増えていますが、アクションにつながるわけではありません。


では、SDGsは単なるファッションで意味がないのか、というとそれは違います。SDGsのような共有目標、ビジョンを掲げることは、世界を変えていくために必要です。ただ、共有目標、ビジョンを実現するためのガバナンス、マネジメントが不足しています。国連は、初期には、SDGsのプロモーションに力を入れ、それはSDGsの認知・関心を高めることに、一定の効果がありました。ハイレベル政治フォーラムで毎年フォローアップとレビューを行うのは良いと思いますが、回を重ねるにつれ、形式化している印象があります。


SDGs実現に向けた取り組み強化のためには、いくつかの方法があるかと思いますが、そのためには、SDGsとは何かを整理する必要があります。第1にSDGsは「目標」です。これは、多くの人が理解しているところでしょう。第2にSDGsは「ツール」です。サステナブルな社会実現のために、うまく使われるべきものです。第3にSDGsは「理念」です。「誰一人取り残さない」という言葉が象徴的ですが、こういう社会を創っていこうという考え方を提示しています。この3つめの側面については、SDGsの浸透活動を通じて、ある程度理念が広まっているかと思います。


第1の「目標」としてのSDGsの問題は、対象が広すぎるということです。17ゴール、169ターゲットをいった壮大な目標を提示されても、どう手を付けて良いか分かりません。また、「優先課題を特定して、それに取り組め」と言われても、自発的に取り組むインセンティブがありません。気候変動、人権など、個別イシューごとには、法令やイニチアチブなどによって取組みが進んでいます。SDGsも17ゴール、169ターゲットを前面に出すのではなく、結果としてこれらを達成するために、波及効果の大きい重点イシューを特定し、それらについて、重点的にイニシアチブを推進するといったことが必要です。既存のイニシアチブの効果も見据えつつ、SDGsを構造化し、重点的に取り組むべきイシューで、追加でイニシアチブを立ち上げる必要のあるもの、既存のイニシアチブを梃入れする必要のあるものがあれば、そこに重点的にリソースを投入すべきです。


第2の「ツール」としてのSDGsについては、SDGs採択直後は、「より良きビジネス、より良き世界」、「SDGコンパス」、「SDGインダストリーマトリックス」など、ビジネスにおいて活用できるレポートやツールが発表されていましたが、その後は、有効なツールは出てきていません。SDGsに関する書籍も、ほぼ概念的な内容、既存の事例紹介にとどまっています。SDGsは、まずは課題のチェックリストとして使えますが、新規事業探索、バリューチェーン/エコシステム強化などにSDGsが活用できるよう、SDGsツールの開発にもっと力を入れることが期待されます。


SDGsに関心を持つ人の裾野は広がっています。しかし、本気でSDGsを実現しようとする人々が戦略的に行動しないと、本当にファッションで終わってしまいます。SDGs採択から5年を経た今、改めて戦略的SDGsの推進を考えるべきときです。

閲覧数:30回0件のコメント

最新記事

すべて表示

非財務と財務の相関関係や因果関係を可視化する企業が増えているが、現在の取組を肯定するのではなく、戦略や将来ビジョンの納得性を高め実現するために使うべき

日本企業では、非財務と財務の相関関係や因果関係を可視化するのが流行っているようだ。非財務指標と企業価値の相関関係を統計学的に分析する、非財務活動と企業価値との因果関係(の粗い仮説)をロジックツリーのような形で構造化するなどの取組みが行われている。...

「自社のサステナビリティ」は日本独自の言い方。日本のサステナビリティ経営をガラパゴス化にしないように注意が必要

以前、 日本型CSVとして日本企業の特長である「継続力」を活かしたCSVがあり、東レの炭素繊維などを代表例としてあげました 。 日本は、世界的に見て長寿企業が多く、200年以上の長寿企業の数は、世界の4割以上を占め、2位ドイツの2倍以上とされています。ゾンビ企業を生かすこと...

本物のサステナビリティ経営の5つの要諦

2025年は、トランプ政権誕生などもあり、ESGに逆風が吹くと考えられている。しかし、世界のサステナビリティに向けた動きは長期的に不可逆的なものだ。短期的に逆風が吹くときこそ、本物のサステナビリティ経営を着実に進めることが、長期的な企業価値の創造という観点からも重要となる。...

コメント


bottom of page