top of page
検索
  • takehikomizukami

SDGsに取り組むには、新たなレンズが必要だ!

SDGsが2015年に採択されて6年以上経つが、企業の対応は既存活動への「ラベル貼り」にとどまっており、SDGs実現に向けた新たな価値を生み出していない。SDGsは、既存の社会・経済システムにおいて未解決の問題の集合体であり、それをビジネスで解決するには、新たなレンズ(=ものの見方、解決のフレームワーク)が必要だ。


SDGs自体も世界が解決すべき問題を17ゴール、169ターゲットに整理したフレームワークで、1つのレンズと言える。しかし、SDGs実現に貢献するには、その課題をさらにズームインするレンズ(課題を良く理解するレンズ)、そして課題の解決策を考えるためのレンズが必要だ。


課題をズームインするレンズとは、気候変動問題に対応するには、GHG排出を可視化し、削減する、または適応戦略を考えるからスタートし、可視化には何が課題となっているか、GHG削減の方法にはどのようなものがあり、それを実現するにはどのような課題を解決する必要があるかなど、課題を構造化し、ブレークダウンしていくためのフレームワークだ。課題を構造化、ブレークダウンすることで、解決策と結びつけることが可能になる。


気候変動であれば、上記の「(GHG排出)可視化」「緩和(GHG排出削減)」「適応」が、まずは課題にズームインする入口の基本レンズとなる。「生物多様性」であれば、「土地利用」「汚染」「乱獲」「外来種」といった影響のレンズ、「原材料供給」「気候調節」「水量調整」「水浄化」「災害緩和」「景観」といった依存のレンズを起点に、どの具体課題に対して解決策を考えるかを明確にする必要がある。


SDGsで掲げられる目標・ターゲットの多くは、途上国に関係する。途上国が抱える問題が何故未解決なのか、それを理解するためには、まずは「途上国特有の課題」を見るレンズが必要だ。貧困、飢餓、健康、エネルギー、インフラなど、途上国の問題が未解決なのは、消費者の購買力不足、現金の当日入手、市場が分散しており流通が未整備、消費者が商品・サービスを受け入れる知識・習慣を持っていない、社会インフラの不足など、途上国特有の課題があるからだ。まずは、「途上国特有の課題」レンズを通じて、SDGsに対応するビジネス・ソリューションを実現するために解決すべき課題を具体的に理解する必要がある。


解決すべき課題を具体的に特定した後は、解決策を考えるレンズを使う。解決策を考えるレンズには、「テクノロジー/イノベーション」「パートナーシップ」「市場創造」「長期視点」などがある。例えば、「テクノロジー/イノベーション」のレンズを使って考えることで、1人1人の購買力が小さく、幅広い地域にユーザーが分散している市場において、ICTにより多くのユーザーとつながり、使用量に応じた少額課金するなどのビジネスモデルが見えてくる。


「テクノロジー/イノベーション」レンズを使えば、「リバース・イノベーション」での課題解決も見えてくる。途上国市場での製品開発において「性能」、「インフラ」、「規制」などのギャップに注目。「性能」については、低価格で一定の性能を持つ画期的な新製品の可能性を考える。「インフラ」については、途上国でも普及しているインフラ(モバイルネットワークなど)を使えないかを考える。「規制」については、途上国では一般的にゆるめの規制を利用できないかを考える、などだ。


「パートナーシップ」のレンズでは、政府、企業、市民セクター、財団などの協働「コレクティブ・インパクト」で課題を解決できないかを考える。NGOとの連携で、低コストの「ハイブリッド・バリューチェーン」を構築できないか、リスクを軽減するために公的資金も活用する「ブレンデッド・ファイナンス」は可能か、競合との「非競争分野の協働」はできないか、などだ。


その他、「市場創造」のレンズでは、顧客の啓発活動や事業展開に必要な人材育成、必要なルール整備を働きかけるなど通じて市場を創造できないかを考える。「長期視点」のレンズでは、課題解決の結果生まれる次なる課題に先回りして対応する、長期的な市場の立ち上がりを見据えて、短期的には小さな市場で事業展開しつつ技術やノウハウを蓄積できないかなどを考える。SDGsビジネスに関連する様々なレンズを用いることで、課題を解決するビジネスのアイデアが広がる。そして、自社のパーパスや強みに適合するビジネスアイデアを具体化していくことで、SDGsビジネスの実現可能性が高まる。


SDGsの価値は、サステナビリティへの関心を高めたことに加え、多様な課題や考えが存在するサステナビリティの取り組みに対し、世界の共通目標を作ったこととだ。SDGsで共有された目標の基本形、社会が目指す方向性は、2030年の後も変わらず、次の”Goals”にも引き継がれるだろう。


社会が向かう大きな方向性が変わらないとすれば、早く新しいパラダイムに適応するほうが、長期的優位を確保できる。SDGsへの既存ビジネスでの貢献をアピールする“ラベル貼り”にとどまらず、企業は本質的に価値を生み出すよう取り組むべきだ。多様なレンズによるアプローチで、自社ならではのパーパスや強みを武器にして、SDGsに本質的に貢献する企業が増えることを期待したい。



閲覧数:34回0件のコメント

最新記事

すべて表示

サステナビリティやステークホルダー資本主義の議論になると、必ず新自由主義の象徴とも言えるミルトン・フリードマンが引用されます。 拙著「サステナビリティ -SDGs以後の最重要戦略」でも、フリードマンの「企業経営者の 使命は株主利益の最大化であり、それ以外の社会的責任を引き受ける傾向が強まることほど、自由社会にとって危険なことはない」という言葉を引用しています。そして、効率的な市場を通じて世界を豊か

最近は、ジャニーズのニュースを見ない日はありませんが、この問題は、企業が人権への対応を考える良い機会となっています。 9/7のジャニーズ事務所の会見を受けて、アサヒグループHDは、いち早くジャニーズ事務所のタレントを広告に起用しない方針を発表しました。勝木社長は、ジャニー氏の行状は容認しがたく、「2019年に策定したグループの人権方針に照らせば、取引を継続すれば我々が人権侵害に寛容であるということ

最近は、ESGの文脈で非財務と財務の関係性を分析することが流行っているようだ。ESGの取り組みと企業価値との相関関係を重回帰分析するツール、非財務要素がどう財務価値につながるかの因果関係をロジックツリーのように示す方法などが提示されている。 しかし、こうした方法やツールは、自社のこれまでの取り組みを肯定する、ESGで先進的な取り組みをしているように見せる、といったことに使うだけでは意味がない。実際

bottom of page