今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)に、「(DEIで見落としがちな視点)障害者の雇用は競争優位の源泉となる」という論文が載っています。
拙著「サステナビリティ -SDGs以後の最重要生存戦略」で、SDGs目標8に貢献する取り組みとして「未活躍人的資源を生かす」を挙げ、SAPが自閉症の人材を積極的に採用し、細微に注意を集中するという特性をソフトウェアの修正点の発見などに生かしている例を挙げています。
DHBRの論文ではSAPの例も挙げていますが、障害者雇用の価値として「特別な能力の獲得」「企業文化の向上」「顧客との関係強化」「資本と人材へのアクセス拡大」の4つの競争力強化があるとしています。
「特別な能力の獲得」は、SAPの自閉症の人材雇用のように、障害者の強みを生かすものです。SAPのほか、HPやEYがニューロダイバーシティ(自閉症、注意欠陥・多動症などの神経やそれに由来する個人レベルの特性の多様性)な従業員を雇用し、品質管理、サイバーセキュリティ、コーディングチェックなどの業務で生かしています。英政府通信本部では、監視データの分析のために多くのディスレクシア(読み書き障害)の人々を採用しているそうです。その他、警備会社が、人のポケットの高さの動きがよく見える車椅子の警備員をスリ警備のために雇っている例などが挙げられています。
「企業文化の向上」は、障害者と一緒に働くことで、より協力し合う文化が醸成されるものです。障害のある同僚がいることでお互いに助け合う重要性や、お互いのニーズや能力を知ることの大切さに気づくようです。また、障害のある従業員を雇うことで、心理的安全性が高まるとのことです。障害のある同僚が仕事で成功するのを見るとほかの従業員も刺激を受け、自分たちもパフォーマンスを高められると気づくという効果もあるようです。
「顧客との関係強化」は、障害者を雇用することが、顧客に対する価値提案の大きな要素になるものです。顧客は企業が障害者を雇用しているとわかるとその企業との心理的つながりが形成されやすくなり、購入金額を増やそうという意欲が高まります。顧客が障害者を雇う企業を「より公正だ」と見るようになり、その企業の製品やサービスを購入することで顧客自身が障害者の力になっていると感じるようになります。オランダのコーヒーチェーン、ブラウニーズ・アンド・ダウニーズの従業員の多くはダウン症でサービス提供に少し時間がかかりますが、「だからこそ同店を訪れるのが好きだ」という顧客がいます。また、障害者を雇うことで、障害のある顧客やその家族の需要が呼び込めます。
「資本と人材へのアクセス拡大」は、障害者を雇うと、顧客以外のステークホルダーとの関係においても優位性を構築できるものです。投資家との関係では、インパクト投資が拡大する中、投資の受益者が障害者に関連している投資が36%を占めています。障害者は企業にとって未開拓の人材の源泉であり、障害者雇用によりスキルの高い人材を獲得しやすくなります。また、障害者を採用すると、障害のない人にとっても魅力的な企業として映る可能性が高くなります。
競争優位を生み出す新しい人的資本として、自社の業務に適した障害者雇用に注目する価値はありそうです。
(参考)「障害者の雇用は競争優位の源泉となる」ルイーザ・アルメニー/フリーク・バーミューレン(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2023年12月号)
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