CGコード改訂が示すサステナビリティ経営の新機軸
2026年に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)は、形式的な順守から実効性のあるガバナンスへの転換を強く打ち出しました。サステナビリティに関する規定が「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」から「取締役会等の責務」へ移されたことは、その象徴です。サステナビリティは、もはや社会への配慮にとどまらず、取締役会が中長期的な企業価値の向上に向けて担うべき経営課題として位置付けられたのです。
近年、日本企業ではESG評価への対応や統合報告書などの情報開示が進みました。一方で、質問票への回答や開示資料の作成が目的化し、サステナビリティ部門は「開示」、経営企画部門は「戦略」、事業部門は「事業」と役割が分断されるケースも見られます。しかし、開示そのものが企業価値を生み出すわけではありません。今回の改訂が求めるのは「開示の高度化」ではなく、社会課題への対応を事業ポートフォリオや研究開発、人材戦略、設備投資、資本配分に組み込む「経営の高度化」です。
その実践に有効なのが、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)です。ESGが主に企業の持続可能性を評価する視点であるのに対し、CSVは、社会課題を成長機会として捉え、社会価値と企業価値を同時に生み出すための経営戦略です。CGコードにCSVという言葉はありませんが、「中長期的な企業価値の向上」という理念はCSVの考え方と重なります。
CSVには三つのアプローチがあります。第一は「製品・サービス」です。気候変動、資源循環、自然資本、健康、人権などの課題と自社の技術や強みを結び付け、新たな製品や市場を生み出します。重要なのは、「自社だからこそ解決できる社会課題は何か」を問い、課題を制約ではなくイノベーションの起点として捉えることです。
第二は「バリューチェーン」です。調達、生産、物流、販売などの過程で環境・労働問題に対応しながら、生産性や品質、供給の安定性を高めます。例えば、農家への技術支援による原料の安定調達や、包装材の軽量化・物流効率化による環境負荷とコストの削減が挙げられます。社会課題への対応は、単なるコストではなく競争力の源泉になり得ます。
第三は「ビジネスエコシステム(クラスター)」です。人材育成、教育、インフラ、制度、標準化、消費者への啓発などを通じて、自社を取り巻く市場や事業環境そのものを育てます。企業単独では解決できない課題に働きかけることで、社会の発展と自社の成長基盤の強化を両立させます。
これからのサステナビリティ経営に必要なのは、担当部門に任せることではなく、経営トップ、取締役会、経営企画、事業部門が一体となって、社会課題を競争優位へ転換することです。サステナビリティを「守り」から「攻め」へと転換し、価値創造に結び付けられるかどうかが、企業の将来の競争力を左右します。
(注)上記は、雑誌「リスクマネジメントTODAY」に投稿した内容の概要版です。詳細は、雑誌をご参照いただければと存じます。


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