サステナビリティと経営、非財務と財務を統合して情報開示するツールとして、統合報告がある。統合報告は、サステナビリティ経営に取り組む原則3「自社事業、バリューチェーンに影響を及ぼす課題に対して、戦略的に対応する」を中心に、社内外のステークホルダーにサステナビリティに取り組む経営的意味合いを伝えるために活用すべきものだ。
統合報告の作成プロセスも、経営層をはじめ、社内の様々なステークホルダーとコミュニケーションする機会であり、サステナビリティ経営の意味合いを伝える良い機会だ。特に、価値創造ストーリーの描画は、そのために活用できる。
統合報告においては、企業がどのように財務・非財務を統合して長期的な価値を創造していくかをシンプルに表現した「価値創造ストーリー」が描かれるケースが多い。統合報告のガイドラインとなっているIIRCのフレームワークにおいて、価値創造ストーリーの考え方が示されていることがその背景にある。
しかし、現時点では、企業の本質をしっかり表現できている「価値創造ストーリー」を描画できている企業は少ない。企業・経営の本質をシンプルに表現する、しかも財務・非財務を統合した形で行うというのは、かなり難度の高い作業だ。しかし、「価値創造ストーリー」を描画することは、会社の目指す姿、サステナビリティに取り組む考え(WHY)を社内外に示し、その方向に経営を舵取りしていく上で、非常に重要であり、チャレンジする価値がある。
価値創造ストーリーの描画にあたっては、まず自社の強み(重要資本)、ビジネスモデル、理念体系などの価値創造の基盤を描く。そして、価値創造の基盤に戦略、すなわちリソース配分を掛け合わせることで、価値が創造される。創造される価値は、社会価値、財務価値、非財務価値の3つだ。
社会価値は、理念体系におけるパーパス、ビジョンの実現に関わる。財務価値は、リソース配分の原資となる。そして、非財務価値が強み(重要資本)の強化につながる。社会価値⇔理念体系、財務価値⇔戦略、非財務価値⇔重要資本、この3つの循環を強化する戦略を策定することが重要だ。
CSVや6つの資本を強化するESG戦略は、この循環を強化する。製品・サービスのCSVは、社会価値と財務価値を生み出す。バリューチェーン、クラスター/エコシステムのCSVは、社会価値と非財務価値を生み出す。6つの資本を強化するためのESG戦略は、非財務価値を生み出すものだ。
上記のような財務・非財務を統合した価値創造ストーリーを描くことは、経営戦略、事業戦略、機能戦略も統合し、企業全体の縦割りを排除した「組織の統合」にもつながる。統合報告作成にあたっては、出来るだけ、本質的な価値創造ストーリーを描くことを目指すべきだ。
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