「ブルーオーシャン戦略」のW.チャン・キム、レネ・モボルニュ氏がHBRの論文で「非ディスラプティブな市場創造」の考え方を紹介しています。
既存市場を破壊し新たな市場を拓くディスラプション(破壊)は、クレイトン・クリステンセン氏の「イノベーションのジレンマ」以降広く使われるようになり、イノベーションと同義と見なされています。
これに対して非ディスラプティブな市場創造は、技術的イノベーションなどの従来のイノベーションの概念とは一線を画した「既存の業界間の垣根を超えた、真新しい市場の創造」と定義されます。既存の企業や市場をいっさいディスラプトせず、経営破綻や雇用喪失を生み出すこともありません。非ディスラプティブな市場創造の例としては、女性活躍を促進した整理用パッド、貧困層に金融アクセスを提供したマイクロファイナンスなどがあげられています。
社会課題解決領域は、非ディスラプティブな市場創造機会の宝庫です。脱炭素を例にとってみましょう。
脱炭素ビジネスは、「可視化」「緩和」「適応」の観点があります。「可視化」については、クラウドベースのGHG排出量算定ツール、衛星監視などまったく新しい市場が生み出されています。
「緩和」に関して、化石資源を使用し大量にGHGを排出している市場については、ディスラプションによる代替が必要となります。ここは雇用にも影響するため、政府の支援が必要でしょう。リカレント教育などは、こうした領域に注力すべきです。一方で二酸化炭素除去(CDR)、カーボンクレジットなどの新しい市場も生み出されています。今後注目される食の領域でも、食品廃棄物の活用など非ディスラプティブな市場が生み出されるでしょう。化石資源を代替する領域でも、EVや再生可能エネルギーがライフサイクルで生み出すエコシステムを考えると多様なディスラプティブな市場が考えられるはずです。
HBRの論文では、中国の水生飼料メーカー、トンウェイ・グループの例があげられています。日本同様中国でもグリーンエネルギーの生産適地が限られる中、トンウェイ・グループは、自社が大規模に展開する養魚場の水面に着目しました。そして自社開発した革新的なケージ型水産養殖システムと水上太陽光発電を組み合わせた、養殖場統合型の太陽光発電という非ディスラプティブな市場を創造しました。太陽光パネルから電力が生み出されるだけでなく、水上の太陽光パネルが水温を下げて光合成と藻の生育を抑制し、養殖場の生産高を押し上げ養殖業者の収量アップにつながりました。この市場は中国全土で急拡大しています。
「適応」に関しても、インフラ強靭化のための洪水や高潮対策、監視・早期警戒など新しい市場が生み出されるでしょう。
気候変動以外の社会課題領域でも様々な非ディスラプティブな市場機会があります。ディスラプションは、既存業界からの反発など政治的な影響を受けるため、非ディスラプション市場のほうがビジネスを進めやすいかも知れません。社会課題解決ビジネスを展開しようとする場合、非ディスラプティブな市場創造の考え方は重要でしょう。
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