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途上国の産業と技術革新の基盤を構築するリバース・イノベーションとコレクティブ・インパクト

SDGsの目標9にもありますが、貧困など途上国の課題を解決するには、「産業と技術革新の基盤構築」が重要です。これを実現するためのコンセプトとして、「リバース・イノベーション」と「コレクティブ・インパクト」があります。


途上国での「技術革新」を促進する重要コンセプトである「リバース・イノベーション」は、従来のグローバル企業が、先進国で製品・サービスを開発し、途上国に展開することを基本としてきたのに対し、途上国で製品・サービスを開発し、そのグローバル展開を目指すというものです。途上国市場で開発されるイノベーションは、低価格・低性能のローエンド市場向け製品・サービスで、これが急速に成長すると、破壊的イノベーションになる可能性もあります。


途上国市場での製品開発では、4つのニーズのギャップ、「性能」、「インフラ」、「規制」、そして「好み」のギャップに注目することが必要です。「性能」については、低価格で一定の性能を持つ画期的な新製品を提供します。例えて言うなら、15%の価格で50%の性能を発揮する製品のイメージです。「インフラ」については、途上国は、道路、通信、電力、銀行など、様々なインフラの状況が先進国とは異なります。基本的にはインフラが不足していることが多いのですが、一部最先端のインフラが整備されていることもあります。例えば、電力などは不安定な地域が多く、電池式の携帯機器が求められたりしますが、無線通信などは発達している地域もあり、モバイル・バンキングや遠隔医療などが普及しやすい状況にあります。


「規制」については、途上国では公正な競争のための規制が不十分なケースもありますが、逆に過度の規制がなく新しい技術が展開しやすい面もあります。例えば、低コストで診断が可能な切手サイズの診断用検査紙は、規制が厳しくない途上国で先に普及しています。「好み」も途上国では異なります。ペプシコは、インドでトウモロコシではなく、レンズ豆を原料としたスナック菓子を開発し、成功しています。


こうした途上国向けに開発された製品は、先進国市場で提供されている製品がオーバースペックとなっている場合などには、先進国市場でも普及する可能性があり、先進国で新しい市場を切り開く可能性もあります。例えば、中国向けに開発された、安価で、携帯性に優れ、特別なノウハウを必要としないGEの小型超音波診断装置は、先進国で、救急車内、遠隔地の事故現場、救急救命室、手術室など、これまでの製品が対応できていなかった新しい市場を開拓しています。


リバース・イノベーション推進にあたっては、既存の社内プロセスや社員の意識が障壁となることがあります。これを克服するためには、トップのコミットのもと、人材、資金、権限などを途上国での製品開発に移し、リバース・イノベーション専門の特別組織「ローカル・グロース・チーム(LGT)」をつくることが有効です。P&Gは、メキシコ市場での女性用生理用品の展開にあたって、LGTを編成し、固定観念なく顧客の声に耳を傾けました。そして、衛生的な公共トイレの不足、プライバシーが少ない小さな家での生活などの生活環境を踏まえ、暑くて湿度の高い中で長時間利用するためには、自然素材が求められていることを理解し、新たな製品を開発しました。そして、LGTは、完璧な製品設計を事前に追及する代わりに、安い価格でテストし、その結果から学習していき、最終的に大きなシェアを獲得しました。前述の小型超音波診断装置の事例においても、LGTが有効に機能しています。


「産業の基盤整備」については、「コレクティブ・インパクト」がカギを握ります。コレクティブ・インパクトとは、社会課題について、1つの組織だけで取り組むのではなく、政府、企業、市民セクター、財団などが、互いの強みを活かして取り組むことで問題を解決しようという考え方です。途上国でインフラを整備する場合、企業1社で取り組めることには限界があります。特定の社会課題の解決という目的を共有するプレーヤーによるコレクティブ・インパクトが必要です。


ノルウェーの世界最大の無機肥料メーカーであるヤラは、アフリカで食糧の生産性向上に貢献する事業を展開しようとしましたが、港湾から農家に至るまでの道路、冷蔵輸送設備が未整備、港湾手続きにおける汚職、農家の生産向上に向けた知識不足、資金アクセスの欠如などが障壁となりました。しかし1社でこうした課題は解決できないと考え、他のグローバル企業、NGO、国際機関、現地政府など数十の組織を巻き込み、農業発展のためのインフラを整備する団体を立ち上げました。そして、多額の投資を行い、港湾・道路・鉄道・電力等を整備、有効に機能する農業協同組合を組織し、関係業者・金融機関の誘致などを行いました。その結果、現地の農業を発展させるとともに、ヤラも利益を得ることができました。


SDGsで求められるような新たな価値創造には、新しいレンズを持つことが必要です。途上国の技術革新や産業の基盤構築に向けては、リバース・イノベーション、コレクティブ・インパクトといったレンズが有効です。


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