新事業の提案などに対して、「同じような事業は、以前やって失敗した」と反対されることがあります。しかし、以前失敗したからと言って、今回も失敗するとは限りません。誰がやるかも重要ですが、以前から状況が変化していることも多いからです。そのため、イノベーションを重視する会社では、「10年前に失敗した」を禁句としているところもあります。
特にサステナビリティ関連のビジネス環境は、10年前と現在では大きく異なっています。政策も変わっていますし、投資家や消費者の意識も大きく変わっています。10年前に失敗したものでも、現在であれば、成功する可能性があります。
そういう意味で思い出されるのは、ベタープレイスです。ベタープレイスは、EV普及のために、2007年に創業しました。当時、EV普及には、「高額な購入価格」「走行距離の制約」「充電スポットの未整備」が3大課題と言われていました。ベタープレイスは、これらの課題に対し、バッテリーの非所有と交換によるビジネスモデルで対応しようとしました。
車とバッテリーを分離し、ドライバーは車のみを購入して所有し、ベタープレイスがバッテリーを購入して所有します。走行距離ベースの月額料金と引換えに、ベタープレイスは、自宅や職場に充電スポットを設置し、ドライバーにバッテリーの使用権を与え、ベタープレイスが建設する充電設備へのフリーアクセスを提供します。また、バッテリーの交換スタンドを設置し、無制限のバッテリー交換も実施します。
電気自動車の価格の半分近くを占めるバッテリーが車の購入から切り離されることで、「高額な購入価格」というハードルをクリアできます。また、バッテリー交換スタンドや充電スポットを多数設置することにより、「走行距離の制約」「充電スポットの未整備」のハードルをクリアしようとしています。バッテリー交換スタンドでのバッテリー交換は、ガソリンタンクを満タンにするよりも短時間で済むので、バッテリー交換スタンドが高密度で整備されれば、実質的に走行距離を長くすることができます。
ベタープレイスは、地域を限定して高い密度のバッテリースタンドや充電設備の設置を大胆に進めようとしました。ターゲット地域の一つとして、ガソリン価格が高く、電気自動車の普及を政策的に支援しているイスラエルを選び、数千の充電スポットと主要ルート100マイルごとに4カ所のバッテリー交換スタンドを整備しようとしました。
ベタープレイスはこのように優れたビジネスモデルで、戦略も悪くなかったと思いますが、2013年に経営破綻しました。
課題はいくつかありました。自動車メーカーは、バッテリーを重要な差別化ポイントと考えており、ここを標準化・共通化することには、協力的ではありませんでした。バッテリーが進化途上で、今後小型化などが進むと考えていたこともあるでしょう。品質保証に対する責任の所在の課題もありました。また、充電設備の設置には多額の費用がかかる一方、バッテリーの交換では多額の料金徴収が難しいというそもそもの事業性の課題もありました。
しかし、現在では、脱炭素に向けてEVの普及が大きな政策課題となり政策的支援が得られる可能性が高まっています。さらにバッテリー技術が成熟し、車種によっては、標準化・共通化できる可能性があるでしょう。バッテリーの用途を工夫することで、収益源の多様化も考えられるかも知れません。10年前よりは、各段にビジネスの成功の確度は上がっています。
ベタープレイスは、一つの事例ですが、日本企業もこれまで様々なサステナビリティに関連する製品やビジネスを提供しており、そこで培われた技術やノウハウも蓄積されています。「10年前に失敗した」製品やビジネスは、宝の山かも知れません。自社が過去に蓄積したものを改めて見直してみる価値はあるでしょう。
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