「ブルー・オーシャン戦略」のW.チャン・キム、レネ・モボルニュ氏の新著「破壊なき市場創造の時代」は、「非ディスラプティブな創造」の考え方、事例などを紹介しています。
非ディスラプティブな創造は、技術的イノベーションなどの従来のイノベーションの概念とは一線を画した「既存の業界間の垣根を超えた、真新しい市場の創造」です。既存の企業や市場をいっさい破壊(ディスラプト)せず、経営破綻や雇用喪失を生み出すこともありません。
非ディスラプティブな創造の例としては、聴覚障害者が音楽を聴くことができるウェアラブル振動触感デバイス、女性活躍を促進した整理用パッド、貧困層に金融アクセスを提供したマイクロファイナンス、銀行口座を持てない貧困層向けのモバイル決済サービス、未就学児が楽しく教育や道徳を学べるセサミストリートなどが紹介されています。
個人的に面白いと思った非ディスラプティブな創造のひとつは、フランス郵政公社が配達する郵便の数が激減する中、国内の津々浦々にまで及ぶネットワークと市民との信頼関係を活かして創造した「両親の見守りサービス」です。
フランスでも高齢者の孤独が社会問題化していますが、フランス国民にパン屋の次に好かれている郵便配達員が、高齢者を訪問しておしゃべりしながら何か異変がないか確認しています。月40ユーロで毎週郵便配達員が高齢者の自宅を訪問し、アプリを使って依頼者に、親が元気かどうか、食料品の補充や家の修理などの支援の必要がないかなどを報告し、買い物代行などもしています。
もうひとつ面白いと思ったのは、中国の水生飼料メーカー通威集団の例です。日本同様中国でも東部や中部でグリーンエネルギーの生産適地が限られる中、通威集団は、自社が大規模に展開する養魚場の水面に着目しました。そして自社開発した革新的なケージ型水産養殖システムと水上太陽光発電を組み合わせた、養殖場統合型の太陽光発電という非ディスラプティブな市場を創造しました。太陽光パネルから電力が生み出されるだけでなく、水上の太陽光パネルが水温を下げて光合成と藻の生育を抑制し、養殖場の生産高を押し上げ養殖業者の収量アップにつながりました。この市場は中国全土で急拡大しています。
「破壊なき市場創造の時代」では、非ディスラプティブな創造を実現するための3つの基本条件として、「非ディスラプティブな機会を特定する」「機会を解き放つ方法を見つける」「機会を実現する」をあげています。
「非ディスラプティブな機会を特定する」には2つの道があります。ひとつは、手つかずの問題や課題に取り組むことです。既存業界の垣根の外にある、「我慢して共存しなくてはならない」「どうすることもできない」と当然視されてきた未探求の問題や課題を特定し対処します。もうひとつは、既存の業界の枠に囚われずに、新たに出現した問題や課題に対処することです。経済、社会、環境、テクノロジー、デモグラフィックなどの変化に伴い既存業界の垣根の外側に持ち上がる新たな問題や課題を特定し対処します。
「機会を解き放つ方法をみつける」ための最善の方法は、その機会がなぜ、どのようにして見過ごされてきたか、対処されてこなかったのか把握することです。まず、非ディスラプティブな機会を覆い隠してきた既存の業界の前提を掘り起こし、明確にします。そして、そのビジネス上の意味合いを引き出し、機会がなぜ、どのように隠され、見過ごされてきたのかをはっきりさせます。そのうえで、機会を解き放つ方法を見つけ出すために、既存の前提に挑んで捉え直します。
「機会を実現する」ためには、3つのイネーブラー、「リソースフルネス」「内部のリソースとケイパビリティ」「”should”ではなく”could”のマインドセット」を確保します。リソースフルネスは、世界中の知識、エッジ、専門性、資源、ケイパビリティを、みずから保有しない場合でも創意工夫によって活かす能力です。「内部のリソースとケイパビリティ」は、組織がすでに持つ、または構築・獲得するリソースやケイパビリティです。「”should”ではなく”could”のマインドセット」は、”should”ではなく”could”の精神で考え、問いかける姿勢です。非ディスラプティブな創造を実現するために、ビジネスモデルやテクノロジーはどうあるべきかを問うのではなく、それらを繁栄の機会に変えるのはどうすれば可能かを問います。
「破壊なき市場創造の時代」では、非ディスラプティブな創造を実現するための3つの基本条件を、具体例を交えながら詳しく説明しています。そこには、社会課題解決イノベーション、製品・サービスのCSVを生み出すためのヒントが豊富に示されています。
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