2050年までにCO2排出ネットゼロを実現することが、世界共通の目標となりつつある。しかし、その実現のためには、CO2を7%以上削減することが必要とされる。IEAによれば、世界の2020年のCO2排出量は、前年から5.8%減った。2050年CO2排出ネットゼロ実現のためには、新型コロナウイルスが猛威を振るい、人々の移動や飲食をはじめ世界経済を停滞させた2020年以上のCO2排出削減を毎年続ける必要がある。実現が容易ではないことは明らかだ。
経済成長を義務付けられる現在の資本主義のもとでは、脱炭素技術やサーキュラーエコノミーが進展して資源効率が高まったとしても、消費が増え続ける限り脱炭素は無理だろうという、社会システムを大きく変革する必要があるとの論調もある。
グリーン投資を増やすだけならそれほど難しいことではないだろうが、経済成長を求め、消費を増やし続ける中で、投資を増やすだけでCO2排出ネットゼロが実現できるとは考えにくい。経済のあり方を大きく変える制度的対応が必要だが、それを実現するには、現在の政治や経済の状況は、あまりにも心もとない。
炭素税などのカーボンプライシングは、脱炭素に向けた第1歩となるが、フランスでは、炭素税の1種である燃料税の引き上げをきっかけに政権への反発が広がり、黄色いベスト運動と呼ばれる反政府の抗議活動がフランス全土に広まった。パリ協定の議長国として、温暖化対策をリードしたいと考えたマクロン政権だが、あえなく挫折した。CO2排出ネットゼロがスローガンから現実の政策、人々の生活に関わる問題となったとき、果たして人々がそれを受け入れるか。生活に苦しむ人々にとっては、「地球環境は心配だが、今はそれどころではない」のだ。
特に現在のような格差社会を放置し、それが広がるままになっている状況では、気候変動対策に対する市民のサポートを得るのは難しいだろう。格差問題と気候変動対策は結びついているのだ。格差問題を放置したままでは、CO2排出ネットゼロは実現できない。
富裕層を中心に気候変動対策費用を負担する、気候変動対策を通じて格差を是正するようなスキームが必要だろう。富裕層の中でも、世界のリーダー的立場にある人たちは、そうした負担を受け入れる、あるいは自らそうしたスキームを設計・実践する、未来のためのノブレス・オブリージュが求められる。
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