脱炭素を中心に、サステナビリティに対する関心が高まり、サステナビリティを経営に統合するとしている企業も増えている。しかし、本質的にサステナビリティを経営に統合しようとしている企業は、まだ限られるようだ。
脱炭素に向けて、自動車産業はEVシフトを進める、エネルギー産業が脱化石燃料を進めるなどは、政策や投資家などの要請にリアクティブに対応しているだけで、本質的なサステナビリティ経営とは言えない。
また、再生可能エネルギー関連、水素関連、バッテリー関連などの事業を展開するのは、既に顕在化している事業機会を追求しているだけで、従来型の経営と何ら変わりがない。ただ、10年以上前からこうした事業を本格展開して、競争優位を築いている企業は、本質的なサステナビリティを追求した結果と言えるだろう。そう、本質的なサステナビリティ経営の条件の1つは、先を見ることだ。
気候変動、サーキュラーエコノミー、生物多様性といった課題について、CO2を排出し続け温暖化・気候変動に加担し続けること、プラスチックなどを大量に廃棄続けること、生態系を破壊し続けることは、経済社会の持続可能性の観点から許容できないのは、明らかだ。これらの課題は、最近でこそ多くの企業の関心事となっているが、対応が必要であることは、30年以上前から分かっていたことだ。
しかし、どこでどのくらいリソースを投入するか、事業構造を変革するか、タイミングを捉えるのは難しい。そこで、長期的には事業構造の変革が求められることを常に意識し、外部環境変化やステークホルダーの動向にアンテナを張り、変化に備えるのが本質的なサステナビリティ経営だ。
本質的なサステナビリティ経営の条件の2つ目は、バリューチェーン全体を見ることだ。自社事業がサステナビリティ課題とどうかかわっているのか、自社の生産活動や製品・サービスの観点だけで考えていると、視点が不足する。バリューチェーン全体でサステナビリティ課題とどう関わっているかを理解していないと、サプライチェーン上の人権問題を突然指摘されて慌てふためくことになる。バリューチェーン全体で社会・環境にどのような影響を与えているか、社会・環境に依存しているところはどこかを理解した上で、長期的な変化に備える必要がある。
そして、本質的なサステナビリティ経営の3つ目の条件は、組織面で、サステナビリティと経営が統合されていることだ。上記のサステナビリティ課題への長期的要請、バリューチェーンにおけるサステナビリティ課題との関わりは、経験のあるサステナビリティ担当者であれば、概ね理解している。しかし、サステナビリティ担当者がそうした話をして、対応の必要性を訴えても、「それでいくら儲かるのか?」と経営層や事業部門が聞く耳を持たないということは、良くある話だ。良くあるというよりは、ほとんどの企業で今でもそうだと言っていい。サステナビリティ部門が持つ問題意識を共有して、経営レベルで能動的に取り組みを進めることができなければ、経営とサステナビリティが統合しているとは、とても言えない。
長期的な視点で経済社会の構造変化の必要性、外部環境変化やステークホルダーの変化を捉える時間軸、バリューチェーン全体を捉える空間軸、サステナビリティ部門の問題意識を組織全体で共有して一体的に取り組む組織軸、本質的なサステナビリティ経営には、この3つの軸での統合が求められる。
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