「サステナビリティ」が新たな競争軸になりつつある。政策が急速に動き、「脱炭素」がビジネスのメインストリームでも注目を集めるようになっている。地球温暖化は、1992年の「国連気候変動枠組条約」のころから重要な問題と考えられてきたが、30年を経てようやく危機感が共有され、取組が本格化する流れとなっている。
ビジネスにおいても、2000年代半ばくらいから、一部企業は地球温暖化等の環境問題を重要な取り組み課題に掲げている。例えば、リコーは、2005年に2050年までに環境負荷を1/8にするというビジョンを掲げている。GEが「エコマジネーション」というコンセプトを打ち出して環境ビジネスを本格化したのも2005年だ。しかし、この頃から環境ビジネスを本格化した企業が必ずしもその後成功しているわけではない。成功する企業は何が違ったのだろうか。
脱炭素に先んじて取り組み大きな成功を収めた企業の代表例は、デンマークの洋上風力大手オーステッドだ。オーステッドは、1972年に国営石油・ガス会社として設立され、2000年代から電力事業を推進していたが、供給するエネルギーの85%を石炭で賄っていた2009年に、2040年までにエネルギー供給の85%を再生可能エネルギーで供給するとのビジョンを掲げた。そして、洋上風力発電の世界最大手となり、85%再生可能エネルギーのビジョンは、2019年に21年前倒しで達成した。
オーステッドは、2008年にドイツでの石炭火力発電プロジェクトが、地域の強い反対により中止となったこと、2009年のCOP15で、再生可能エネルギー推進が大きな議題となったことなどから、当時先行的に投資していた洋上風力発電に大きく舵を切る意思決定をした。社内には、当初再生可能エネルギーへのシフトに懐疑的な意見があったが、その後化石燃料価格の変動などでビジネスに打撃を受ける中、再生可能エネルギー、洋上風力発電シフトに向けて社内の合意形成がなされていった。サステナビリティに対する理解・感度が全社に共有されるようになったのだ。
私は、脱炭素などサステナビリティ企業への変革に成功するには、サステナビリティに対する理解・感度が全社的に共有されることが重要と考える。こうしたサステナビリティに対する理解・感度を、「サステナビリティ・インテリジェンス(SI)」と呼ぶ。
インテリジェンスとは、物を考える能力とそのために利用する情報が揃って適切に機能するといった概念だが、企業の強みとして、市場に関する知識や洞察力(=マーケット・インテリジェンス(MI))、技術に関する知識や洞察力(=テクノロジー・インテリジェンス(TI))といった言葉を使うことがある。また、MIとTIを実際にビジネスで継続的に成功していくには、市場と技術を結節してビジネス化する能力やそれに関わる知識が必要で、それをビジネス・インテリジェンス(BI)と呼ぶ。企業が持続的に成長していくには、MI、TI、BIが揃っていることが必要だが、これらに加えて、脱炭素、サステナビリティの時代には、SIが求められるということだ。サステナビリティの潮流やステークホルダーの動向を洞察し、ビジネスにどう生かすか、そうした能力を持つことが必要となっている。
オーステッドは、SIが組織に根付いている。最近では、2030年までに1GWの洋上風力発電所を電源としたグリーン水素工場を建設するビジョンを掲げ、世界最大のグリーン水素生産基地を設けることとしている。また、すべての風力タービンブレードを廃棄せずにリユース、リサイクル、回収することにコミットしている。SIを高めたオーステッドは、洋上風力の強みを生かして、次のビジネス機会として水素生産に取り組み、将来的に必ず求められる風力タービンブレードの再利用に先手を打っているのだ。
脱炭素、サステナビリティの時代には、サステナビリティ・インテリジェンス(SI)を如何に組織に蓄積するかが、今後の企業としての発展に大きくかかわるようになっている。
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