top of page
検索
  • takehikomizukami

数字からサステナビリティを考察する。”Numbers Don’t Lie”より

「人々がスター・ウォーズの新作を待ち望むように、私はシュミルの新作を待つ」とビル・ゲイツがファンであることを公言するバーツラフ・シュミル氏の”Numbers Don’t Lie”は、そのタイトルどおり、数字というファクトをベースに様々なトピックについて語っている。さらに、信頼できる数字を適切な観点から見て比較することで、世界で何が起こっているかを明らかにしている。同署では、サステナビリティに関するトピックも多数取り上げられており、サステナビリティの本質を捉えて取り組みを考える上で役に立つ。いくつかその内容を紹介する。


「幸福について」幸福度ランキングでは、北欧諸国が上位を占め、日本は58位と低い。しかし、日本より上位に、麻薬が蔓延し、暴力事件や殺人事件の発生率が極めて高いメキシコ(23位)、グアテマラ(27位)、コロンビア(43位)などがいる。日本のほうが、これらの国より経済的に豊かで、政情が安定し、暴力事件が少なく、暮らしやすいと考えられるが、幸福度は低い。このパラドックスの答えの一つは、日本より上位のこれらの国は、かつてはスペイン領で、圧倒的にカトリック教徒が多いということだ。幸福のためには、宗教の役割が重要だという仮説が導かれる。


「食品ロスについて」人口が急速に増大する中でも、アンモニアを利用した窒素肥料のお陰で、これまでは必要な食料が生産できていた。しかし、窒素肥料には、窒素の漏出により、硝酸塩による水汚染、窒素酸化物による生態系の酸性化、亜酸化窒素による温暖化を促進するなどの問題がある。今後50年で20億人の人口がアフリカで増えることを考えると、窒素肥料がもっと必要となるが、窒素の漏出は減らす必要がある。一方で、全世界で生産・採取された食料の1/3以上が廃棄されている。米国では、カロリー摂取過多で成人男性の74%、成人女性の64%が過体重か肥満になっている上に、約40%の食料を廃棄している。窒素漏洩の問題以外にも、食料生産に関わる環境負荷は多大だ。食品ロスは、喫緊に解決すべき問題である。


「畜産について」地球上の哺乳類の生物量の60%は家畜、36%は人間で、野生動物は4%に過ぎないとされるが、特に畜牛の生物量は膨大だ。2020年時点で地球上に畜牛は約15億頭いるとされる。畜牛の体重は、大型のものは1000キログラムを超えるが、小さなものもいて、平均体重は400キログラム程度だ。そうすると、生物量は約6億トンとなり、人間の生物量約3.9億トンを上回る。今後、人間の生物量は増加が続くことが見込まれるが、畜牛も同様に増加することは、環境負荷の観点から許容できないだろう。


「人新世について」人類が生物圏を支配するという特徴を持つ新たな地質年代「人新世」が始まっていると言われる。大量の廃棄物、都市化、生態系の破壊等人類は確かに地球に大きな影響を及ぼしている。しかし、人類は、地球のエネルギー源(太陽の熱核反応)、自転・公転、地球表面の動き(プレートテクトロニクス)、火山の噴火、地震、津波などに影響を及ぼしているわけではない。また、6600万年前に始まる暁新世から1万1700年前に始まる完新世までの7つの「世」のうち、完新世を除く世は最短でも250万年続いている。それに比べれば、完新世はまだ始まったばかりで、人新世というものがあるとしても、その始まりはせいぜい8000年前(定住農業が始まったとき)か150年前(化石燃料の本格的燃焼が始まったとき)だ。人新世に入っているかどうかは、あと1万年ほど待ってから決めるべきではないか。


「風力発電について」風力発電は、太陽光と並んで、再生可能エネルギーの中心と位置づけされる。そして発電量を増やすため、どんどん巨大化している。現在建造中の風力タービンでは、260メートルのタワーと107メートルのブレードを持つものもある。これだけの巨大建造物を製造するには、莫大な量のセメント、鋼鉄、プラスチックが必要となり、その輸送や建造にも莫大なエネルギーを必要とする。そして、その材料生産やエネルギーは、化石燃料に依存し、温室効果ガスを排出する。再生可能エネルギーを中心としたカーボン排出ネットゼロの実現は容易ではない。


「エネルギー移行について」風力発電と太陽光発電は、確かに普及している。1992年に世界の電力の0.5%しか供給していなかったものが、2017年には4.5%となっている。しかし、まだまだ16%程度の水力発電に大きく劣る。また、全世界の最終エネルギー消費のうち電力が占める割合は27%に過ぎず、風力発電と太陽光発電の低炭素への貢献は、さらに小さくなる。化石燃料はもとより、木材や木炭などのバイオマス燃料にも大きく水を開けられているのが現状だ。また、空運・海運、鉄鋼・セメント・アンモニア・プラスチックなどの製造は、当面化石燃料に依存する。カーボン排出ネットゼロ実現には、時間がかかるのは明らかだ。

閲覧数:27回0件のコメント

最新記事

すべて表示

地域こそ気候変動への適応に目を向けるべき

EUの気象情報機関によれば、2023年の世界の平均気温は、1850年の気象観測開始以来もっとも暑く、産業革命前の1850年~1900年平均に比べ1.48℃高かったそうだ。産業革命以降の温度上昇を1.5℃以内に抑えようというパリ協定の目標を超える寸前だ。 パリ協定の目標達成に向けて、世界は2050年までのカーボンニュートラルを実現しようと様々な取り組みを進めている。しかし、痛みを伴うカーボンニュート

「デコ活」を意味のある取り組みにするには何が必要か

「デコ活」(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動)というものが始まっている。2030年にGHG排出46%(家庭部門66%)削減、2050年カーボンニュートラルという目標実現に向けて、啓発活動により消費者や企業の意識変革を促すとともに、デコ活応援団(官民連携協議会)というものを通じて民間資金を導入して、脱炭素に向けた製品・サービスを社会実装していこうとするものだ。デコ活推進事業に令和6年

非ディスラプティブな市場創造による社会課題の解決

「ブルーオーシャン戦略」のW.チャン・キム、レネ・モボルニュ氏がHBRの論文で「非ディスラプティブな市場創造」の考え方を紹介しています。 既存市場を破壊し新たな市場を拓くディスラプション(破壊)は、クレイトン・クリステンセン氏の「イノベーションのジレンマ」以降広く使われるようになり、イノベーションと同義と見なされています。 これに対して非ディスラプティブな市場創造は、技術的イノベーションなどの従来

bottom of page