新型コロナ禍に苦しむ航空業界ですが、脱炭素への備えも進めなければなりません。グレタ・トゥーンベリさんがCO2を大量に排出する航空機を使わないことで、「飛び恥」など言葉も生まれ、気候変動に害を与える悪玉の印象がついています。
一方で、航空機には大きな推進力が必要であり、脱炭素は容易ではないと考えられてきましたが、ここに来て、脱炭素の動きが加速しています。
航空機の脱炭素の方法としては、自動車と同じように電動化するという選択があります。しかし、プロペラが主体で、電池重量や航続距離の課題もあり、当面は、小型航空機による単距離輸送、エアタクシーなどの用途が中心となるでしょう。また、水素航空機開発の動きもありますが、水素の貯蔵や供給、安全性の問題もあり、実用化はかなり先とみられています。
そこで当面の主流とされるのは、生物由来の原料を中心とした持続可能な航空燃料(SAF, Sustainable Aviation Fuel)です。国内でも、JAL、ANAが木くずや微細藻類を原料とするSAFをジェット燃料に混合したフライトを成功させています。
SAFについては、航空会社、航空機メーカー、エンジンメーカーがコラボレーションを通じて、様々な取り組みを行っています。
カーボンオフセットを通じて全米の国内線でカーボンニュートラルを実現するなど、サステナビリティを先進的に進めているジェットブルー航空は、ワールド・エナジーという会社から、非可食部の農業廃棄物を原料としたSAFを調達し、持続可能なバイオマテリアル円卓会議(RSB)認証も取得しています。ジェット燃料と比較すると、CO2を最大80%削減可能とのことです。なお、ジェットブルー航空は、電動航空機や水素航空機の活用によりカーボンクレジットの創出を目指すことも発表しています。
ボーイングは、オランダのSAF開発企業SkyNRGとパートナーシップを締結し、SAFの供給・利用を世界規模で実施することとしています。SAFの開発・利用拡大、認知向上に向けて、航空会社、政府、NGO等と協働していくこととしています。ボーイングは、2030年までに、すべての民間航空機を100%SAF仕様にすることを宣言しています。
航空機エンジンメーカーのロールス・ロイスは、シェルと航空業界の脱炭素に向けた協働で合意しています。シェルは自社が開発するSAFをロールス・ロイスに提供し、ロールス・ロイスは、技術的専門知識を提供し、シェルの航空機向けの新燃料開発にアドバイスを提供します。また、両社は、航空業界団体などに、2050年までの脱炭素、ネット・ゼロを働きかけていくこととしている。
革新的な技術開発も進んでいる。LanzaTechは、独自の微生物発酵技術で、CO、CO2、水素などからエタノールを生成し、SAFに転換している。CO2を回収してSAFに転換できる優れた技術を持つ。
SAFの普及を促進するための制度的枠組み構築の動きもある。世界経済フォーラム(WEF)は、SAFの新たな認証制度「持続可能な航空燃料証書(SAFc)」を創設しました。SAFcは、SAFのトラッキングと検証プロセスを通じて、中央管理の帳簿で使用量を把握するためのバーチャル会計制度です。マスバランス方式を採用し、帳簿上で管理して二重使用を防ぎます。
このようにSAFに向けた動き、航空輸送の脱炭素に向けた動きは、急速に進んでいます。自動車業界のEV化などがメディアを賑わせていますが、あらゆる業界で脱炭素の動きは加速しています。
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