最近は、GAFAM(アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ)にテスラ、エヌビディアを加えた7社をマグニフィセント・セブンと言うそうだ。今年度初頭から米国株式市場をけん引しており、売上でもS&P500指数構成銘柄の500社の約10%を占める。その影響の大きさがマグニフィセント(壮大な)という言葉にフィットすることから、黒澤明の「7人の侍」をモチーフにした西部劇「荒野の7人」をリメイクした2016年の映画「マグニフィセント・セブン」から名が付けられたようだ。
マグニフィセント・セブンが筆頭格だが、世界の各業界において、特定の企業が影響力を持つ傾向にある。こうした企業は経済的な影響力を持つが、製品・サービス、バリューチェーンを通じた、サステナビリティへの影響力も巨大だ。
逆に言えば、こうした影響力の大きな企業がサステナビリティを重視した行動をとることは、世界のサステナビリティの進歩に大きく貢献する。アップルは2030年までにサプライチェーン全体をカーボンニュートラルとすることとし、サプライヤーに脱炭素化を要請しているが、これは非常に大きな影響を及ぼしている。
そう考えると、世界のサステナビリティ推進のためには、特定の影響力の大きな企業の行動変化を促すことが有効だ。しかしながら、政策的には、特定の企業に絞って規制することは難しい。加えて、マグニフィセント・セブンなどの影響力の大きな企業は、政治的影響力も強い。政策には期待できないだろう。
一方で、NGOは、忖度することなく影響力のある企業にプレッシャーをかけることができる。
10年ほど前、グリーンピースがグローバルIT企業に対し、大量の電力を使用しているとしてネガティブキャンペーンを実施した。GAFAMに加え、IBM、オラクル、HP、デル、セールスフォース、ツイッター、ヤフーなど米国を代表する14社の使用電力の環境配慮を独自評価し、評価が低かったアップル、アマゾン、マイクロソフトに対し、ネガティブキャンペーンを世界的に展開した。
そのキャンペーンはかなり過激で、ドイツでは、グリーンピースのメンバーが、化石燃料をイメージした黒い風船を持ち、アップルストアに押しかけた。ルクセンブルグでは同様に、煙をイメージした白い風船を掲げ、アマゾンに警鐘を鳴らす広告を打ち出した。
アップルやマイクロソフトは、今ではサステナビリティの優良企業として認知されているが、グリーンピースのキャンペーンの効果も大きいだろう。
グリーンピース以外でも、KnowTheChainがアパレル、食品飲料、ICT業界の主要企業をサプライチェーンの強制労働の取り組みの観点から評価し、企業の行動変革を促している。World Benchmarking Allianceは、気候変動、人権、ジェンダーなどの関連から、影響の大きい業界の主要企業を評価している。NGOが企業の株を取得し、株主提案を通じて行動変革を促すやり方も広がっている。
拙著「サステナビリティ-SDGs以後の最重要生存戦略」でインタビューしたWWFジャパンでは、日本企業は横並び意識が強く、他社が取り組みを始めると動くため、先進的な取り組みをする意向がある企業を後押しし、企業事例を生み出すことを重視している。また、気候変動などについて、業界ごとに企業を評価し同業他社と比較している。日本企業は、同業他社のことを気にかけているため、同業他社との横並び評価は効果があると考えているそうだ。
政府は、網羅的あるいは一定の規模以上の企業に幅広く対応を求める傾向があるが、サステナビリティに向けて意味のある成果を早く生み出すためには、影響の大きい特定企業の行動変革を促すほうが有効だ。NGOの戦略的活動に注目だ。
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